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それから毎日、私は弘樹くんと過ごした。
彼が庭で花の手入れをしている所や、窓際で暇そうにしている所を見かけたら決まって声をかけ二人でお茶をしたりする。
余り大声で呼ぶことは出来ないため、筆談用のスケッチブックとペンをいつも窓際に常備するようになっていた。
「今日の紅茶、美味しいですね。」
いつも美味しいですけど、と付け加え本当に美味しそうに紅茶を飲む彼を眺めながら私はスコーンを一口齧る。
実は君の為に用意した新しい紅茶なんだとは何故か気恥しく言わなかったが。
「まぁ、気分で変えたりしてるんだ。」
「もしかしてお高いやつですか?・・・なんか申し訳ないなぁ。」
「いいんだ、こうやって君が話し相手になってくれるだけで私は嬉しいよ。」
そう言って、紅茶を飲み、スコーンをまた一口齧る。チラリと彼の方を見やると少し顔を赤らめて嬉しそうに笑っていた。
この笑顔に私は弱いんだ。
「あ、そうだ・・・余計なお世話かもしれなかったが。警察に相談させてもらったんだ。」
「え・・・そうなんですか?なんか、何から何までAさんに頼りっぱなしで・・・本当ありがとうございます。」
これで少しは落ち着くといいんですけど、と困ったように笑いながら彼は紅茶を口に付ける。
きっと大丈夫さ、と彼の頭に手を伸ばした。
優しく撫でてやると気持ちよさそうに目を瞑る彼は動物の様だ。
「あ、もうこんな時間だ。そろそろ帰って晩御飯の準備をしないと・・・父が怒ってしまうので失礼しますね。紅茶とスコーン美味しかったです。ではまた明日。」
「あぁ、また明日。」
彼はいつも4時半になると家に帰っていってしまう。それは8時頃に帰ってくる父の為に早めに晩御飯を作る為だそうだ。
いつも月の初めに3万が置いてあり、それから色々やりくりをしていると言っていた。
まだ無垢な15歳の少年に、あの親父は何をやらせているんだ。
底知れぬ怒りがこみ上げてきて、自分のこの手で殺せたら・・・と何度思ったことか。
あわよくば、彼を自分の息子にしてしまいたい・・・と何度思ったことか。
そう願ったって、叶うことは一生ありえないと分かってはいる。
せめて彼が平穏で、幸せな日々を送れたら。
それだけでも私も彼も心は救われるのだ。
彼が使った後のティーカップと皿を片付けながら、私はそんな事を考えていた。
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優桃(プロフ) - ゆーなさん» 初めまして、コメントありがとうございます。そう言って頂けると頑張ろうって思えます(*^^*)これからも頑張りますのでよろしくお願いします。 (2018年1月21日 21時) (レス) id: a4872d24e8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆーな(プロフ) - 面白かったです!お気に入り登録しときました!これからも頑張ってください! (2018年1月21日 21時) (レス) id: 9e3b82e97b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:優桃 | 作成日時:2018年1月21日 21時