ににたんと

5 ページ37

いつも彼女の1番じゃなきゃ嫌で、少しでも他のものに興味を持つと全身で嫉妬した

変わったのは見た目くらいで
15年前と何も変わらない


登りきった丘の上で
並んでまだ暗い東の空を見上げる

ぽつぽつと
同じ目的の人達が集まり始めると
あたりは次第に賑やかになってきた


やがて滲むように 陽が輝きはじめると
まわりから小さく歓声が沸いた


ゆっくりとした速度で
地上を染め昇る陽を
ぼんやり見つめていると


「にに は にに なのよ」


Aが隣でぽつりと呟いた

「…A？」

「あたしの中では
ずっとずっと、幼い頃のにになの」

今年初めての陽の光を背に
しっかりと俺の目を見据える

彼女が呼ぶ心地良い俺の名は
子供の俺のこと、か

「だから…」

続きを言いかける その口唇を
手で塞いで

「今はそれでいいよ」

瞬きをする瞳に笑ってみせた

「Aだって、俺の中では
ずっとずっとAなんだから」

そう、ずっとずっと
大好きな隣のお姉さんなんだ

ただ、今の俺にとってAは
一人の女性として映っている訳だけど…

困ったように見上げる眼差しに

「少しだけ 目、瞑って？」

そう言うと
彼女の背後にまわり

ポケットの中に手を突っ込むと
箱から中身を出した

かじかむ手は言うことを聞かず
何度目かでやっと掛かった留め具に
ホッと胸を撫で下ろす

言葉数少ない俺

歳上のA相手に
守ってあげるなんて言葉で
カッコよく指輪を渡せる自信なくて

側にいたいって想いを込めて
ネックレスを渡すくらいなら頑張れるかな、なんて

昔、Aが俺に
沢山の幸せをくれたように
彼女の元に
幸せが数多く訪れるよう選んだ
クローバーのトップがついた
ネックレス


なけなしのバイト代で
買いに走った初めてのプレゼント


マフラーの下に手を滑らせ
首元を探るAを

「待ってて」

後ろからゆっくりコートの中へ
引き寄せ 抱き締める

「に、にに？！」

「時間かかってでも
わからせてあげるから」

少し体温の高い俺

「それまでは 『子供のにに』でいい」

Aの頰が赤く染まるのは
俺の体温だけが理由じゃないはず

「いくつ歳が離れてるか
わかって言ってんの」

「うん」

「待ってたら…あたし
おばあちゃんになっちゃうじゃない」

「うん」

「そんな無責任な」

「大丈夫
Aだから」

またも俯くAに
もう一度言う

「大丈夫
Aだから」




どんなに時が流れても
変わらないものだってあるんだよ

6→←4

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す