そんなつもりや、ないけど。 ページ3
山田side
九条と一緒にエレベーターで、１階に降りた。
「はぁー、また劇場に戻ろ。下田が待ってるし」
「俺は家帰って、あっつい風呂入ろ」
九条と別れて、仕方なく歩き出す。
なお家の近くやけど、こんな情けない顔で塩焼きそば食べたないし
もちろん食欲なんかない。
バス停に向かって、ゆっくり歩いてたけど
スマホを出して、リダイヤルした。
「洲崎、Aが水上とキスしとったらしい……」
「え？マジで！？」
「俺は見てへんけど、九条が見たんやって」
「お前だけやなくて、九条も病院行ったんかい！」
「明後日の約束も、しとったらしいねん」
「え！？俺と京都行くんは？」
「たぶん、行かんやろ」
「まぁ、“考えさせて”って、言うてたけど、はぁ……マジかぁ」
「お前は、まだ誘えただけ、ええわ！俺なんか、病院行っただけやで！」
「ん、まぁな……」
「行って、振られて帰るだけや」
「振られてへんやん！」
「俺も、お前も、九条も、振られてんねん！」
「ん、まぁ、そうなるんかなぁ……九条は？」
「漫劇に戻った。下田が待っとるって」
「下田、また八つ当たりされてんのかな？可哀想に」
「はぁー」
「そっかぁ、はぁ……健人、気ぃつけて帰れよ」
「ん、ありがとー」
すぐそこのバス停が、遠いわ。
Aside
“いつまでも居候してるの申し訳ないので、近いうちに、荷物を取りに行きます”
水上先生を見送って、そのまま山田さんにラインした。
すぐに既読になったけど、返信はなかった。
九条さんに、水上先生とキスしたのを見られてたのも、気付かなかったし
山田さんが九条さんに会って、そのまままた、１階に降りて帰ったのも、もちろん知らなかった。
だから既読から、なかなか返信がこなかったのも、あまり深く考えへんかったし
荷物を取りに行った時に、きちんと皆さんにご挨拶しようと、考えてた。
疲れてそのまま寝てしまったから
翌朝目が覚めて、山田さんから
“送って欲しい住所を知らせてくれたら、宅急便で送ります”
って返信に、ちょっと悲しくなったけど
“お忙しいなか、返信ありがとうございます”
“少しの間やったけど、皆さんにお世話になったので、きちんとご挨拶させて下さい”
って返信してしまったから
山田さんに、イヤな思いをさせてしまったと思う。
知らなかったとはいえ、自分の鈍感さと身勝手さが情けなくて
後から思い出しても、恥ずかしい。
ほんまに鈍感で、阿呆なあたし。
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作者名：すーゆみ | 作成日時：2020年8月29日 21時
