好きが溢れて、切なくて、苦しくて。 ページ38
『貴郁さん、あと、あたしが淹れるから』
「え？うん」
『花菜ちゃんの様子、見てあげて欲しいん』
「えっ、ん、んー…やけどさぁ…」
『あたしが話すよりも、一度きちんと、貴郁さんと話した方が、たぶん…』
俺を見上げるAの瞳に、なんとなく促されて
「ん、わかった」
「俺と話すことで、解ってくれるか判らへんけど」
「〈かなちゃん〉に、話してみるわ」
「俺なりの、言葉で」
いつの間にか、ソファーで独りきり、やった。
なんとなく、辺りを見回してたら
ティッシュ箱を抱えた洲崎さんが、部屋に入ってきた！
え？
あの女は？
今、洲崎さんと、二人っきり…
「ちょっとは、落ち着いた？」
あたしを気遣う表情が、カッコ良過ぎて
どきどきが、止まらへん！
さり気ない感じで、横に座って
箱から出したティッシュを、差し出される。
「…あ、ありがとう…ございます」
「応援してくれて、ファンになってくれて、めっちゃ嬉しいねんけど…」
「大切で、守りたい人がいてるから、俺は、〈かなちゃん〉の気持ちには、応えられへんから」
「ほんまに、ごめんなさい」
あたしの大好きな声で、あたしだけを見て、きちんと頭を下げてくださった。
「…洲崎さん、あたし…」
また涙が溢れて、止まらへん
「あ、ほんまにごめんなさい。そんな、泣かんといて…」
ティッシュでそっと優しく、涙を拭ってくれてる。
びっくりして、どきどきして、恥ずかしくて
余計に泣いてしまってる。
「んー、どうしよ」
そっと背中を擦ってくれる手に、甘えたくなって
洲崎さんの胸に、顔を寄せて縋りついてしまった。
「もう、しゃあないなぁ」
「ちょっとだけな、Aにはナイショやで」
ふんわり抱きしめられて、洲崎さんの匂いに包まれる。
ちっちゃい子ぉみたいに、頭を撫で撫でされて
あぁ、やっぱり
しっかり子ども扱いされてるやん…
…あたし
そりゃあそっかあ
あたしはまだ、17歳の高校生やし
洲崎さんより、15も歳下で
ｵﾄﾅの男性の、洲崎さんからみたら
もう全く、女性として
勿論、洲崎さんの恋愛対象からは
きっちり、しっかり
ﾊｽﾞﾚてるんやなぁ
って、思い知らされる。
「…こちらこそ、すみませんでした」
居心地の良すぎる、腕の中から
何とか、身体を引き剥がして
今度はあたしが、洲崎さんに頭を下げた。
「あ、あぁ…うん」
笑顔の洲崎さんは、素敵過ぎやから
どうしても、好きが溢れて
切なくて、胸が苦しくなった。
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作者名：すーゆみ | 作成日時：2020年8月29日 20時
