想いが墜ちてゆく、壊れてゆく…… ページ32
「いってきます」
『いってらっしゃい』
Aにキスをして、玄関を出た。
「こんにちは。あの、洲崎さんですよね？」
マンションを出てすぐ、声をかけられた。
「え？あ……はい」
中学生？
高校生くらい？
「握手して下さい！サインも、頂けたら嬉しいんですけど、急いでらっしゃいますか？」
ノイズのＣＤと、ペンを胸元に抱え、頬を染めて俺を見上げてる。
「あ、ＣＤ買ってくれたんやね。ありがとうございます」
受け取って、サインを書く。
「お名前は？何て書きましょうか？」
「かな。花に、菜っぱの菜です。あたし、山村花菜って、言います」
え？……かな、ちゃん？
手元を見つめて、必死に動揺を隠す。
「はい。花菜ちゃんね……」
書き終わったＣＤを渡して、握手した。
「ほんまに、嬉しいです！ありがとうございます！」
いつもの洲崎スマイルで、とりあえず乗り切る。
彼女は、なかなか手を離してくれへん。
「あ、ごめんなさい。ちょっともう、急がなあかんから、ごめんやで」
「あ、そうですよね。ごめんなさい。ありがとうございました」
「このＣＤ、宝物にします。洲崎さん、大好きです！」
熱っぽく見つめられて、少し、背筋が寒くなる。
「あ、はい。ありがとうございます」
お辞儀をして、早足で彼女から離れた。
花菜side
はぁ、やっぱり洲崎さん、カッコいいなぁ！
何て、素敵なんやろう！
っていうか、あたしの事、洲崎さんに話さんかったん？！
あの女！
今朝入れた＜あの手紙＞を見つけて、震え上がって、はよ別れて、出て行ったらええねん。
今すぐに。
洲崎さんの部屋を見上げて、唇を噛んだ。
Aside
貴郁さんを見送って、使い捨てのビニール手袋をはめ、例の手紙を開封する。
〘お前の存在が、世界を不幸にする〙
〘早く別れないと、コロす〙
便箋いっぱいに、真紅の文字で埋め尽くすように印刷されていて
雑に印刷されたあたしの顔写真は、目がくり抜かれ、切り裂かれて、ズタズタにされていた。
これを造るのに、どれだけ時間がかかったんやろう。
造った人は、あたしを憎んで、嫌って
自分の心の昏い、黒い部分をずっと、やりきれなくて、腹が立って
悩んで、抱えきれんから
こんな事を、せなあかん程
あたしの存在を、認めたくなくて、許せへんのかも
貴郁さんのファン全員に、嫌がられてるんかな？
あたしのせいでファンが減って、お仕事に影響する？
あたしほんまに、ここにおっても、ええんかな
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作者名：すーゆみ | 作成日時：2020年8月29日 20時
