誤ノ二 ページ13
「…おれのせいだ…。」
ルフィだった。
ここに来てから一言も話そうとしなかったルフィが、膝の間から声を漏らす。その姿にAは言葉をかけあぐねた。
「…お前だけのせいじゃねェよ」
なけなしの思いやりでウソップはルフィに答え返したようだった。目の前で展開される疲れ果てた声での二人の会話に、Aは一人取り残されたような気分になった。そしてたまらず会話に割り込む。
「悪ノリしちゃったのは私たちも一緒じゃない」
静かすぎる教室は、離れていても少しの声だけでお互いよく聞こえた。そう言ったAに二人の驚いたような顔が彼女に向いた。
「何のことだ…？」
「えっ…ルフィ悪ノリの事言ってたのかよ？」
「ちげェ…おれは言い出しっぺのことを…？」
困惑したAにルフィもうずめていた顔を上げて彼女を見た。
そもそも彼女が落ち込んだルフィに声をかけあぐねていたのは、自分のせいだと言い張る要素が思いつかなかったからだ。
「なんで？言い出したのルフィじゃないじゃない」
「ルフィだろ？」
「おう…」
「絶対違う！」
そう強く言った。
別にルフィを庇おうという庇護的なものはAの中には存在しなかった。本当にAにはルフィが言い出しっぺだという記憶が全くないのだ。かといって誰だと問われると、その人物が思い出せない。
「誰かは思い出せない…けど絶対ルフィが言い出しっぺじゃないわ」
Aがもう一度否定する。
「じゃア誰がいいだし」
それにウソップが問おうとした言葉が不自然に途切れて、止まった。Aがどうしたかと尋ねようとしたが、それはウソップが強張った顔に人差し指を立てたことでかなわなかった。ルフィもAも口を紡ぐ。自然と教室の中は静かになり、耳が痛いほどの沈黙が現れた。
ず…ずるっずっ
かすかに耳がとらえた音は、大きくなっていた。３人は息を殺しながら唯一教室内を覗ける引き戸の窓から見えない位置に座り込んで、壁に体をべったりと張り付ける。これでもかというほどに角に３人で固まってじっと息を殺していた。
“アレ”の視線に晒されている。Aはそう感じた。次第に肌を刺す冷たい空気と異臭が漂い始めた。
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作者名：水筆の虜 | 作成日時：2016年5月4日 23時
