【WT】恋愛短編のお話③【実況者】 (ページ19)

今日:1 hit、昨日:6 hit、合計:25,741 hit

続き5 ページ19

ある日の午後、いつものように学校から帰る私。

あの不思議な体験からは1ヶ月以上が経ち、記憶も段々と薄れていく…と思っていたが、

『きりやん……』

記憶はまだまだ残っており、それどころか、きりやんに対する想いはどんどんと強まっていた。

あの顔、あの髪、あの服、あの声、あの性格、あの不思議さ

私はただ想いを引きずっていた。完全に惚れてしまっていた。

私はあの時起こった不思議な体験を親や友達に話した。しかし、みんなは口を揃えて「夢を見ていたんじゃないか」と言う。正直私も最初はそう思っていた。

それでも確かに、私には頭を触られていた感触があった。大きい手で優しく触られたあの感触。今でもずっと忘れられないどころか、恋しさも感じていた。あれは夢では無理であろう。

【次は白尾駅、白尾駅です】

車内のアナウンスが聞こえ、私は荷物を持って席を立つ。

ドアが開くと、駅の屋根と電車の間に眩しい光が差し込んでいるのが見える。…まあ、窓から何となく天候はわかっていたけども…

雨だからといってもあの道が出る訳では無い。それは前に体験した事だから既に知っている。それでも、あの時の状況と同じになる事を期待している私が居た。

私はため息をつきながら電車から降り、改札を通って外へ出る。そして、いつもの通り家へと歩き出す。

『(今日会うことが出来なかったらもう諦めよう)』

あの時のことが忘れられない私はついつい思い出してはボーッとしており、授業や部活に集中出来ていない日々が続いている。最近指摘されることが多くなり、そろそろ危機感を持ち始めていた。

重たい足取りで踏みなれた道を進んでいく。しかし、空は私の想いとは反対に、雨雲ひとつない快晴だ。

絶望を感じながら、一歩一歩慎重に歩く。だが…

とうとう神社への道があった場所へ辿り着いてしまった。

私は想いが込み上げてきてしまい、つい涙を流してしまう。幸いにもここは人が滅多に通らない、本当に田舎のちょっとした道。私は今までの想いを全て忘れ去るために、悔いのないくらい思いっきり感情を強く抱き、涙を流し続けた。

すると、

ﾎﾟﾂﾝ

と雫が頭に落ちる。気持ちが高揚する私。

もしかして…と思った私は腕で涙を無理矢理拭い、目の前を見る。すると、

『あった』

確かにそこには、あの時に見た看板、赤い鳥居、そして階段があった。

私は荷物をその場に捨て、全速力で階段を駆け上がった。