▽ ページ23
「そんな顔をしないで下さい」
少しづつ、再び見えない厚い壁が出来ていくように感じた。
片方の指先で彼の頬に触れれば、薄らと潤んだ瞳に私が映り込む。驚いて目を見開いてしまうと、切なげに眉を下げた。
そんな顔を見たい訳でも、させたい訳でもない
私と貴方では、やっぱり釣り合わないのかな。
また身体中で苦く息が詰まる感覚がする
変な圧迫感に上手く声が出せなくて、アズールのブレザーに手で皺を作った。
どんな貴方でも愛せる自信はある。
けれど、泣き出しそうな表情をする理由を私には話してくれないの?
「また可笑しな事を考えてますね」
『だって、』
「僕は大丈夫です、ただの戯言だと流してくれませんか?」
『────...嫌。私は、アズールのでしょ』
ぴく、っと、手を握る指先に力を込められる。
一滴、また一滴と零れた涙が頬を伝っていくのを、驚いたように目を見開く彼が、無意識か、あの日のように優しく掬いとって。鼻を啜りながら縋り付くように彼を引き寄せれば、丸まった背中や下へ垂れた頭を撫でてくれた。
宥められているような自分が情けなくなって、アズールに溺れすぎている自分が嫌で、苦しくなる程、深く深く息を吸い込む。
｢.....本当に、僕で良いんですか?｣
『なんで、もう、ぅ、...私がどれだけ、』
｢あ、な...相変わらず泣き虫な方ですね、分かりましたよ、...すみませんでした｣
｢....僕よりも、といいますか、相応しい方がいるとは思いませんが。
楽しそうにする貴女を見て、ふ、不安になってしまっただけです、本当に、それだけです。｣
｢.......だからどうか、笑って下さい｣
子供のように泣き崩れた私は頷くのよりも先に、彼の何倍もの力で抱き着いた。今だけは許して欲しい。我儘を、聞いて欲しかった。
離れてしまわないように、どれだけ突き放されても良いように。はしたないとは分かっていても、溢れ出した感情を押し殺すことは出来なかった。幾ら声を掛けられても泣き止めない私に申し訳なさそうに笑いながら、彼は胸元にあった“マジカルペン”を手に取って。
きらり、と髪色に似た魔法石が煌めいた瞬間、目尻から流れ零れていた水滴が宙へと浮かんでいく。驚いて目を見開いていれば、あっという間に顔周りを取り囲んで擦りに擦った涙袋の痛みが引いていく。
美妙だと、思った。思ってしまった。
呆気に取られ、頭上に居る彼を見上げることしか出来なかった。彼の魔法をこんな間近で見たのは初めてだった。
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作者名：愛奈 | 作成日時：2021年1月2日 5時
