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4. 忘却の彼方 ページ21

「あっつい。動きたない〜、帰りたなーい!」
7月、湿気でベタベタする自分の机に頬をつけて独り言が溢れた。
「彩葉、あんた一人暮らしでしょ。それともホームシック?」
「ちゃうちゃう。大阪の実家に帰りたないねん。」
「いいじゃん。うちは行ってみたいけどな、大阪。行ったことないもん。道頓堀でたこ焼きが食べたい!大阪城に行きたいしクリコの横でポーズして写真とりたい!」
「へぇー……そらええなぁ…」
ひまりは行ったことがないからそう言えるんよ。いい街なのは間違いないけれど。
ふとあるいい案が思い浮かんだ。そうだ、一人で帰らなければいいのだ。
「……もしよかったら来る?大阪。」
「え!?行く!行かせてください、彩葉さま!」

その夜、私は久しぶりに母ちゃんに電話をかけた。
「もしもし、母ちゃん?彩葉や。」
「彩葉!あんた連絡も寄越さんで。どうや、里帰りする気になったか?」
「その事なんやけどな……友達を連れて帰ってもええやろか?」
「友達?松田はん?」
「ちゃうよ!高校で初めてできた友達やねんけど、一回も大阪行った事ないらしくて案内したいんや。いつもお世話になってるし。」
「別に母ちゃんはええよ。父ちゃんには私から言うとくから……聞こえてたみたいやわ、泣いてはる。」
「え、泣かんでもええやん。」
「でもよかったわ。」
「?」
「父ちゃんにな、彩葉上手くいってへんのとちゃうやろかって入学式の日に聞いて、心配してたんよ。あんたは何も言うてこーへんから。」
「堪忍、上手くやっとるよ。友達も沢山出来たし、陣平くんにもよくしてもろてる。楽しいよ、東都。」
「ほんならよかったわ。ほな日程とか決めたらまた連絡してや。」
「うん、ありがとう。」
お礼を言ってから電話を切る。
親に心配かけてたんやな。慌ただしくて気付けなかったけど、これからは定期的に連絡しよう。そう決意した。


——一方その頃。
「よかったわ、安心した。」
「ホンマにな。」
「……母ちゃん、誰と電話しててん?」
「ああ、彩葉や。あの子メールはマメやけど電話は中々寄越さんさかい。久しぶりに声聞いたわ」
「へぇ、……そうなんか。」
あの子ウチのメールは一通も返してくれへんのになぁ。春に送った『彩葉、東都はどうや。上手くやっとるか?』というメールと『帝丹高校なんやな。蘭ちゃんに聞いたで!』というメール、どちらにも返信はなかった。

何故親には連絡があるのに自分はないのか?
もやりとした思いが胸を燻った。

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作者名:miya | 作成日時:2018年9月23日 9時

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