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しばらく歩くと、赤くて大きなタワーが見えてきた。

「わぁ!おっきい!」
ついつい顔を見上げてしまう。
大阪の通天閣に、よく父ちゃんが休みの日に連れて行ってくれた事をふと思い出した。
「これは東都タワーだよ。中入ってみようか」
「はい。」
エレベータで上に登ると、東都を見晴らせるガラス張りの展望台があった。彩葉は思わずその景色に食いつく。
「すごい!高校も見えますかね?」
「うん、帝丹高校はあっちの方だね。」
蘭先輩は指差しで高校の場所を教えてくれた。あんなに大きな高校もここでは小さく見える。
東都って本当に広い場所だ。こんな上空から眺めるとその大地が広大で、そしてまだまだ世界が先に繋がっているんだと胸が弾む。
「東都ってほんま広いなぁ。」
「そうだよね、私もずっと住んでるけど上から見るといっつも思うよ」
「そうなんですか?住み慣れたら普通に感じるんかと思うてた。」
「ないない!」
蘭先輩は笑って否定していた。
しばらく景色をずっと眺めていると、蘭先輩に「彩葉ちゃん。」と声をかけられた。
「この前、和葉ちゃんと電話したんだけどね。和葉ちゃん、彩葉ちゃんが知らない間に帝丹に進路変更してたこと寂しがってたよ。」
お姉ちゃんは一体何を蘭先輩に相談しているのか。
「和葉ちゃんには知られたくなかった?」
「……うーん、ちょっとだけ。」
「……彩葉ちゃんが内緒にして欲しいなら和葉ちゃんには言わないけど、なんで帝丹高校にしたのか聞いてもいいかな?」
蘭先輩は本当にいい人だ。きっと多分姉ちゃんがこそっと聞いてくれとでも頼んだのだろう。それでも彩葉のことも考えて内緒にしてくれるこの人は、ただ自分の好奇心で聞いてるだけで漏らすことはないはずだ。そう直感で感じた。
「……本当に姉ちゃんに言いませんか?」
「もちろん!」
「……失恋したんです。」
「ええ!?……相手は?」
「相手は流石に言えません。でも……ずっと大好きやった。」
ずっと大好きだった。自分の口からこぼれたその言葉さえ悲しかった。大好きでも平次兄ちゃんのその目には一度たりとも、彩葉は映らなかった。
「失恋して大阪の街から逃げたいと思った。ただそれだけなんです。」
彩葉は精一杯の微笑みを浮かべた。蘭先輩は「辛い事を聞いてごめんね。」と謝ってくれた。
「……なんて言ったらいいかわかんないけど。大きな決断ができる彩葉ちゃんはすごいね。」
「私はただ逃げ出しただけ、何もすごくないです。」

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作者名:miya | 作成日時:2018年9月23日 9時

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