『いつの間にか』 ページ9
ラミが迎えに来てくれたおかげでなんとか家まで帰ってこれた。
「…なぁ、A」
『どうした、ラミ』
「飯は？」
『ない』
「ないじゃねえよ！どうすんだよ！」
『そんなこと言われたって私はこんな状態だし…！そうだ！』
私は棚から本を取り出し、ラミに渡した。
「なにこれ。」
『(。´・ω・)ん?なにって…料理の本』
「は？」
『ん？だから、私のケガが治るまでラミに家事してもらおうかなって』
「…それマジ？」
『マジ。だってそれしかないもん』
私は『よろしく』とひとこと言って、ラミの肩に手を置いた。
それから一ヵ月が経過した。
私の足は回復しつつあるが完治はしていない。しかし、
「おら、出来たから早く行くぞ。」
『ラミ―、お願い。』
「はいはい。」
ラミは毎日、料理や洗濯など家事をしてくれるようになった。文句を言いながらだけど。
歩く時は肩を貸してくれるし、なんだかんだ優しくしてくれる。
けれど、ふと見ると彼の表情が曇る時があった。
『(最近、海に行けてないからかもなあ…)』
なんて私は考えていた。
そんなある日の夜、
「A、今いいか？」
私の寝室にラミが来た。
『あ、い、いいぞ。』
私はびっくりして言葉がうまく出なかったが、ラミは構わず部屋の中へ入ってきてドアの横に立ち、壁に背中を預けた。そしてギリギリ聞こえる小さな声で言葉を紡いだ。
「A。」
私を呼ぶ声はいつものように怒りを含む音ではなく、素直な音だった。
「お前はあんなに大変なことを毎日やっていたんだな。」
…へ？
「お前が動けなくなって代わりにやってるけど、初めてのことだらけで失敗ばっかりして。けど、お前は怒らなかった。むしろ、俺に教えてくれた。」
ラミの言葉を静かに聞いていたら、ラミはベッドの近くにある椅子に座っていた。
「…いつもありがとな。A」
ラミは「おやすみ」と言って、部屋から去っていった。
…
『12歳のくせに何であんな顔整っているんだよ。クソガキのくせに…』
普段あんなに文句しか言わない口から、まさかお礼の言葉が出てくる日が来るとは思ってなかった。
『成長してたんだな、いつの間にか。』
少しだけ心が温かくなり、そのまま眠りについた。
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作者名：とある居酒屋の店主 | 作成日時：2020年1月20日 16時
