恋を知るにはまだ早い (ページ10)

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「へえ？いいご身分じゃん」

瞬間、普段からは想像もつかないような低い声が教室中に響き渡り、室内は一気に凍りつく。

おそるおそる後ろを振り返ると、先程まで丸められていた教科書は跡形も無く変形している。腕に浮かんだ血管がまさに井上くんの今の様子を表しているといえるだろう。

ああ、これは人生終わった。

「で、どこが分かんないの」

「…え？」

「どこ」

「えっと…ここと、ここと、ここ…。あと次のページの…」

「…全部かよ」

怒られる！と咄嗟に身構えた私をスルーし、前の席の椅子を引いて後ろ向きに座る井上くん。驚きつつも分からない箇所を伝えれば、溜め息をつきながらひとつひとつ丁寧に教えてくれる。

井上くんの教え方が上手いのか、普段よりも頭に入りやすい。

「出来た！」

「どれ」

時々ヒントを貰いながらやり終えたワークをあちら側に向けて、答え合わせをする赤ペンにどきどき。最初は仏頂面だった井上くんも、丸を付けていくうちに表情が柔らかくなっていく。お、これは。

「ん、やれば出来んじゃん」

「いった！」

あ、笑った。
全問正解とまではいかなかったが、奇跡的にほとんど丸が付いたワークを受け取ろうと手を伸ばすと、軽く頭を小突かれる。最初は怖い人、なんてイメージだったけれど案外優しい人なのかもしれない。

「井上くんもそんな風に笑うんだね」

「は？」

「や、やっぱり怖い！橋本くん助けて！」

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連載作品の元ネタとなったものです。