【©®+α 短編集】夢だけはみさせろ (ページ3)

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【d】大妖怪ワビナシ (3) ページ3

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［俺の声だけ聞いてても意味分からんだろうからコレ付けとけ］

そんなメッセージと共に目の前に差し出されたイヤホン。イヤホンの先を見るとどうやら接続部分が二股に別れており、もう片方にはだるまのイヤホンが接続されているようだ。
なるほど、これなら2人でも聞くことが出来るということか。

メッセージや視線は私に向けられているというのに、相も変わらず口だけはPCの向こう側のありさかとバニラへと向けられている。器用なことだ。

イヤホンを受け取り“ありがとう”と口だけを動かし伝えると、何事も無かったかのようにだるまはPCへと視線を戻した。

もう配信が始まるのだから、目の前の事に集中したら良いものを。不意に何気ない優しさを見せ、こういった気遣いをしてくれる。普段はあんなガサツで口が悪いというのに…。私はこの男のそういう部分に弱い。

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「そんじゃ配信終わるかな！お疲れ〜ばいち！」

いつもの言葉から数秒置いて配信終了ボタンが押される。
今日はそのままdiscordにも戻らないらしく、だるまがVCからも退室したのと同時に『はあ〜〜〜〜〜〜！！！』と、私にしては大きすぎる溜息をついた。

緊張の糸が途切れ後ろに倒れ込むと雑に置かれていたダンボールに頭をぶつけた。

『いってぇ…』

「何しとるんw」

『誰のせいでこうなったと』

「それは勝手に倒れ込んだ人のせいじゃない？」

自業自得やんと指を指しながら盛大に笑う。
そうだろうか？と思いながらもだるまの声につられ私も笑った。

「なぁ、どうやった？」

何が？などと聞かずもがな、つい今まで行っていた配信のことだろう。

正直、それはもう何よりも格別な時間だったと言っても過言ではない。

次々に産み出される名場面と洗練されたトークセンス。こんなにも面白い配信が出来る彼らはやはり天才だと拍手を送りたくなるほどに。

そして、とんでもなく地獄の時間であった。

声を出してはいけない、物音を立ててはいけない。思えば思うほどツボが浅くなり、幾度唇を噛み締め耐えたことか。もはや噛み締めすぎて血の味がする。

『最初に言ってた“頑張れ”ってこういう意味だったのかと途中で察した』

「ほんまよう頑張っとったな、途中で床突っ伏してバイブレーションみたいになって震えてる時は流石に俺も笑うか思た」

『この空間に殺されるかと思った。いっそ楽にして欲しかった』

「物騒で草」

『もう二度と配信の時は呼ばないでくれ』

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