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きっと、この会場で1番ドキドキしているのは自分じゃないだろか。
そんなことを思いながら、マーコはリング上で選手紹介をされているシンイチに目を向けた。
「(なんで、あいつあんな余裕そうな顔してんの・・・！？こわいよ！！)」
リング上のシンイチは、どうも緊張しているようには見えなかった。
堂々と胸を張って、相手選手を睨みつけている。
「(もしや・・・練習メチャクチャ頑張って覚醒したのかな・・・でも、たった数週間でそんなこと・・・)」
「マーコさん！ついに試合ですよ！！シンイチくーん！！がんばってー！！」
どうか、奇跡が起きてシンイチが覚醒してますように！！と祈りながらゴングと共に動き出したシンイチに声援を送る。
「シンイチー！！！がんばれー！！！」
そんな祈りも、声援も虚しく。
試合開始からものの数秒後、シンイチの左頬に綺麗なストレートが決まり、シンイチは倒れ込んだ。
「！！っやっぱり・・・」
きっと、びっくりして引いてるんじゃないかと隣のチカを盗み見るが彼女は相変わらずうちわを振りながら懸命に声援を送っていた。
「シンイチくん！！負けるなー！！」
なんで？あんなの、試合でもなんでもない。
ただ、成人男性がリング上でボコボコにされているだけなのに。
そんなマーコの視線に気がついたのか、チカが口を開いた。
「私、気付いてたんです。シンイチくんが工事現場で働く作業員だってこと。」
「え？」
「だっておかしいじゃないですか。一緒にラーメン食べに行ったり、スイーツ食べたり。減量しなきゃいけないはずでしょ？
最初は、なんでこんな嘘ついてるんだろう？って裏切られた気分でした。でも、毎日毎日変わらず嘘をつく彼を見ていて、もしかしたら私のためなのかな？って思い始めたんです。
どんな仕事をしているか、なんて関係ないのに。
きっと、シンイチくんはそういうことを気にして私に合わせてくれたんだなって。
だから、私も最後までこの人の嘘に付き合ってあげようって。
変ですよね？でも、こうしなきゃ彼は彼が作り上げた檻から抜け出せないと思うんです。」
「チカちゃん・・・」
そんな話をしている間も、リング上のシンイチはボロボロになりながら相手のパンチを受けている。
「バカだな、あいつ。」
気が付かないうちに、マーコの背後に立っていたタロウ。
「タロさん・・・」
その目は、冷め切ったものではなくて優しくて愛のある目だった。
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作者名：サリー | 作成日時：2020年10月14日 17時
