【明治東京恋伽】満月の夜森邸組 (ページ5)

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伍ページ5

…え。
違う、今のは私の声じゃない。

「…会いたい…」

煙がかかっていたような霞んでいた声がクリアに聞こえる。
痛い、ではなく会いたい、と言っているらしい。…誰が？

もしかして、と思い錆びた指輪に触れてみる。
冷たい。氷水のようでしもやけになってしまいそうだ。比較するために他の指輪に触れてみるが、他の物はすべて心地よい冷たさだ。やはりこの錆びている指輪が怪しい。

袴の袖を萌え袖のように掴んで、錆びた指輪を持ち上げる。袴の布越しなのにまだ冷たさがわかるが、我慢できないほどでもない。耳に近づけてみる。

「…きみこ、さん…」

きみこさん。
誰…と思ったがぴーんときた。そう、鴎外さんの妹さんだ。
元よりここは喜美子さんの部屋だったのだから。

ということで。
整理してみると、まずこの錆びた指輪には付喪神が宿っているみたいだ。
「会いたい」「喜美子さん」の言葉から察するに、主人との別れに耐えられず、ずっと嘆いていたと考えて良い。この家には魂依も居なかったし、フミさんが部屋の掃除をしてくれていたからといって化粧台の中に大切そうにしまってある錆びた指輪には気付けないだろう。

ガチャ、

下から家の扉が開いたような音が聞こえた。鴎外さんか春草さんが帰ってきたのかもしれない。

私は錆びた指輪を元の場所に戻して、玄関に向かった。