【明治東京恋伽】満月の夜森邸組 (ページ1)

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目が覚める。いつもと変わらない朝だ。

私は二度寝してしまわないようのそのそと起き上がり、寝間着から袴に着替えた。
顔を洗い鏡を見ると、そこにはやはり私の顔があった。当然である。

ここでの生活にも随分と慣れた。
現代に帰るかこの時代に生きていくか、決断したあの夜からもうすぐ1か月が経とうとしてる。
大切な、私にもいたはずの家族や友人。その人たちと会うことはこれから先一生無い。
それでも私は良かった。この時代で大切にしたいと思える人たちに出会えた。

後悔はしていない。

部屋のドアを開けて階段を下り、サンルームへ向かう。
フミさんがいつものようにおはようございます、と笑顔で声をかけてくれる。
そして私もまた、それに笑顔で応える。机の上に朝餉が用意されていたのでいただく。

鴎外さんは今日、たしか大学の講義があるとかで夕方まで帰ってこないと言っていた気がする。
春草さんは最近何やら作品の制作で忙しいらしく、朝から日没まで学校に行っていることが多い。

ということは私は今日、家でフミさんと二人きりだ。
フミさんはくるくると掃除している。
食事を終えた私は、食器を水に浸しながら、私も手伝いましょうかと聞いた。
しかしフミさんはもう少しですから大丈夫です、と言った。

私は今、現代でいうところのNEETだ。
家主である鴎外さんもフミさんも何もしなくていいと言ってくれるけど、なにもしないでぼーっと一日を過ごすのはかなりつらい。精神的に。
なにかさせてくれとフミさんに頼んだところ、じゃあ買い出しをお願いしましょう、と言ってくれた。
どうやら銀座に珍しい調味料があるとかで話題になっているらしい。

私は用意を済ませ、家を出た。