君は泣いていた。【岩泉一】

04 震えた声 ページ4

動け、動け。

私はなかなか動かない足に必死に念じる。


今は岩ちゃんに声を掛けたらいけない。

二人の時間を邪魔しちゃいけない。


だから…、






「A…？」


ようやく動いた足でその場を後にしようとした時

後ろから声を掛けられた。


思わず肩がビクッと動く。

私は振り返ることもできずに立ち止まった。



「なんだ、来てたんなら言えよ。」


岩ちゃん自身は平然を装ってるようだけど、

全然違う。声が、震えてる。




「ごめん。」

「…お前は、同窓会行かねェのか？」

「行けないよ。」



そう言うと岩ちゃんは小さくそうか、と呟いた。

そして、そのまま再び私の名前を呼んだのだ。


私はそこでようやく振り返った。







「アイツ、元気かな」



「天国で笑ってるかな」



「もし、生きてたら……。」





じわりじわり、と目に涙が溜まっていく。

だけど耐えられず途中で言葉を止めて、

目に溜めた涙も一気に溢れ出した。


その姿を見て、私もまた涙を流す。





「 …ッごめん…。」

「 …ううん。」






.







今でも岩ちゃんは椿のことを忘れていない。

いや、岩ちゃんにとっては『まだ一年』だろうか。


椿がいなくなったこの世界は、

岩ちゃんにとって退屈で仕方が無いんだろう。





…そんな私は、ただ辛そうな顔を見るだけで

岩ちゃんの心に開いた穴に入ることも出来ない。


岩ちゃんのことがどれだけ好きでも

この想いを伝えることが出来ない。





いや、伝えちゃいけないんだ。

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