完全な恋人

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その日から、

宣言通り、

理不尽な残業を押し付けられた日は、
大倉くんも一緒に残って手伝ってくれるようになった。


二人でいる時間が増える度に、
急加速度的に、私は彼に惹かれていった。


いわゆる、恋。


そうなるのは、必然。


彼にとって、
女の気を惹きつけるのなんて、
朝飯前のはず。


見た目も良くて、
仕事も出来て、
性格まで良い。


こんなに完璧なんだもの。


きっと失恋なんてしたことないだろう。


４歳も年上で、
真面目だけが取り柄のような私なんかと、
釣り合うわけもない。


はじめから、
始まりを諦めるのには、
慣れている。


いつものように、
残業が終わって、
パソコンの電源を落とす。


少し離れた大倉くんの席。


仕事なんてとっくに終えていたらしい彼に、
ずっと見られていたことに、
気付く。


彼の気まずい視線は、
私の半袖の事務服に、注がれていた。


下着の紐が、片方、
袖口まで落ちてる。


慌てて直したけど、
羞恥に消え入りたくなった。


「すいません、
ついガン見してもうて」


大倉くんが、冗談めかして言う。


「ごめんなさい。
見苦しいところを・・・」


「見苦しかなんかない。
ラッキーやなってつい・・・」


「え・・・？」


「すっ、すいません。
つい本音が。
Aさんて、
ガード固いし、
真面目な人やから、
その」


「とっつきにくいでしょ」


「いや、別に、そんな」


焦って言ったくせに、
こっちに向かってゆっくりと歩いてきて。


目の前まで来て、
急に屈みこんで、
私の顔を覗き込んだ。


「ほんまは、思ってる。
めっちゃとっつきにくて、
つかみどころないし、
まいったな、・・・って。
その鉄の要塞、
どうやったら壊せんの？」

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