完全な恋人

完全な罪。／∞・青１ ページ39

章大side


仕事の都合つけて、
お父さんの13回忌のために、
久々に帰った実家。


A姉ちゃんが、
喪服のまんまで、
縁側で、爪を切ってる。

そのパチンパチン、て音が、
お母さんの神経を余計に逆撫でするようや。


「全くこの子は堪え性がないんやから。
一度結婚したんなら、
添い遂げる覚悟でお嫁に行ったはずやろ。
たった４年で帰ってくるなんて」


「だいたい、専業主婦やのに、
これから、どうやって生活するつもりなん？
仕事のめどは立ってるん？
お腹の赤ちゃん、一人で育てるなんて。
どんなに大変か」


「ご近所さんにも恥ずかしいわ。
Aちゃん、里帰り長ない？
もしや赤ちゃん？て、
今日もスーパーで、
噂好きの里谷さんに話しかけられてん。
あの人、絶対にAが離婚したこと、
分かって言うてはるんよ。
お母さん、恥ずかしかった。
女手一つで育てると、
やっぱりこんなことなるて、
後ろ指さされてるようで」


A姉ちゃんは、
そんなお母さんの愚痴、
聞こえてへんのか、
わざと聞こえてへんふりしてんのか、

ほんの少し、
膨らみ始めたお腹を庇いながら、
足の指に、ペディキュアを塗ってる。


「章大からもなんとか言うてやってよ。
今なら裕さんも許してくれるはずやから、
戻りって。
二度も旦那に先に死なれてしもた私と違って、
Aの旦那さんは生きてはるんやから」


炬燵でみかん食べてた俺に振られてもうて。


ちらっと、縁側のA姉ちゃんの方に、
視線を送る。

目が合うて、熱が絡まった。


瞬間に、

もう後戻り出来へんて、

お互いに確かめ合うただけ。



お母さんはなんも知らん。

姉ちゃんの旦那さんの裕さんも。


天国におる、

１２年前に事故で死んでもうた俺のお父さんも、

２９年前にガンで死んでもうた、
A姉ちゃんのお父さんも、

誰も知らん。


これは・・・

A姉ちゃんと、俺だけの、秘密。


「戻ることは出来へん。
裕さんとは、もう終わってん。
あの人は優しい人やった」


A姉ちゃんが呟いて、
ペディキュアの瓶の蓋をキュッとしめた。


まるで、俺の覚悟が、音んなったように感じた。

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