完全な恋人

５ ページ17

それからしばらく経った金曜の夜。


いつものように、私と大倉くんは残業してる。


キスを見られた日から、

なぜか、新里さんも仕事をかって出てくれるようになって。


近頃、残るのは、いつも３人。


「仕事してくれんのに、
断るんも、おかしいやん」


最近の、大倉くんの口癖だ。


新里さんの、


忠義を返して、

私の元カレだから、


あの言葉が何度も胸の中を行き来してる。


大倉くんには、
その真偽のほどは、
確かめてない。


もし、あっさり、

「うん、あの子と付き合うてたで？」

そう、言われたら・・・



仕事を終えて、
３人揃ってオフィスの外に出たら、
雨が降り始めてた。


「台風、近付いてる、言ってたもんなあ」


大倉くんが、黒い大きな傘を広げながら、
呟く。


「私、傘、忘れちゃって。
大倉先輩の傘、大きいから、
駅まで、入れてもらっていいですか？」


新里さんが、甘えた声で、そう言った。

私には到底思いつかない凄技だ。


私も、この前、買ったばかりの、
赤い傘を差す。

普段の私なら、
こんな派手なの選ばないんだけど、

大倉くんが、
カラフルな傘って、
女の人らしくていいなって、
そんなこと、言ってたから・・・


「じゃあ、お疲れ様でした」


二人に背を向けて、
バス停に向かって歩きかけた時、


「なら、この傘、貸すわ。
俺、今日は彼女んち泊まるから。
電車やなくてバスやねん」


背中で、大倉くんのそんな声がした。


まだ、うちに来たことなんてないのに、

週末はいつもそうしてるのが当たり前のような、
自然な言い方だった。

６→←４

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す