耳 ページ16
よく聞こえるということは、すべての音を拾ってしまうということだ。
褒め言葉も、陰口も、笑声も、悲鳴も。
人間である限りいろんな感情あり様々な言葉を口にする。
でも、それが全部聞こえる必要はないだろう。
雑音の中待っているのはたった一つの「ただいま」だけだ。
自分の誕生日は母の命日でもある。
いつもより早く帰ってまきてお祝いをする、と約束したまま帰ってくることはなかった。
タチの悪いドッキリなんじゃないかとか。
みんな勘違いしているだけじゃないかとか。
ひょっこり帰ってくるんじゃないかとか。
そんな考えがぬぐいきれない。でも確実に母はお墓に眠っている。
分かってはいる。
理解しているのだ。
母の声が聞こえはしないかと布団の中で耳を澄まし続けて眠ってしまった次の日の朝、音が洪水のように押し寄せてきた。
余計なことを耳にするのももう慣れた。
普通に戻りたいと思うのも嘘じゃない。
でも、でも、もしいつか母の声が聞けたなら、
きっと普通の耳じゃ拾えない。
だから手放すわけにはいかないのだ。
馬鹿だと思うだろう?
それでも本気なんだ。
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作者名:lamerise | 作成日時:2018年3月11日 22時