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80.異能 ページ6

この返事を聞いて、蜷場は記憶の刷り込みが上手くいったことを確信した。
 しかし、この刷り込みは云わば外膜、殻である。蜷場はここから慎重に、殻の中身を詰めていかねばならないのだ。

「驚かないで聞いてね、僕たちは今、組織同士で戦争をしている。だから、外は危険なんだ。」

『うっうん......』

 意外とスケールの大きな話にAは一瞬たじろいだ。

『(でも、これが普通だったよね……?)』

 蜷場は続ける。

「だから、Aはこの部屋で過ごしていて。」

『ここで……』

「うん、安全なここに、隠れていて?」

 その瞬間、Aをひどい痛みが襲った。何かを破るような鋭く重い痛み、それが頭を中心に四肢へじんわりと、しかし確実に伝っていく。

『ぁ゙あ゙あ゙ッ!!』

 悶えるAから生理的な涙が流れた。シーツを強く握りしめ、どうにか痛みを逃がそうとするが、寄せては返す波のように、鈍痛がAの身体の中で暴れ回る。
 刹那、頭の中に一筋の光がさした。無意識にその光を掴まんとするAに、蜷場は直感で気づいた。それは、今までの経験からかもしれない。

「くそっ……」

 蜷場は躊躇なく、Aの首に手刀を入れた。要は殴った。

「(なんでだなんでだなんでだ!! 上手くいっていたのに、一体なにが本当の(・・・)記憶に触れたんだ!)」

 疑問と焦燥、このような思考に頭を埋め尽くされると、大抵の人間は冷静でなくなる。しかし蜷場は、ある意味冷静だった。今すべきことを理解していたのだから。

「(やっぱりか)」

 蜷場が駆け込んだ部屋は、彼の部屋。Aの部屋の隣に位置する。
 机の中心には、ヒビの入った宝石があった。

「……」

 蜷場は光のない目で宝石に近づき、それにそっと触れた。割れ目からパキパキと小さな音がなり、静かな部屋に響く。
 Aの部屋とは打って変わって暗く、必要最低限の物しかない部屋。ただ机の上には、数個、宝石が転がり、耿々(こうこう)と存在を主張していた。しかし、蜷場のふれた宝石は、なめらかな絹でできた小さな座布団に乗せられている。ほかのどの宝石よりも、大切にされているのは明らかだ。

「(直った)」

 蜷場の手が離れた宝石には先ほどまでのヒビはなく、この上なく美しかった。

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来週の今頃には...期末試験が終わっている(遠い目に少しハイライトが入った瞬間)
次回更新予定日:3月11日

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サヤカ(プロフ) - 柚宇さん» 好き……なんですかねーそうだといいな〜〜!ありがとうございます❣頑張ります!! (7月29日 19時) (レス) id: 2320ebad55 (このIDを非表示/違反報告)
柚宇 - 太宰さん、信者ちゃんのこと好きなのかなー?んーわからない!けど大好きです!この作品とっても面白いのでこれからも頑張ってください!! (7月22日 16時) (レス) @page28 id: 619c9e8827 (このIDを非表示/違反報告)
サヤカ(プロフ) - 百華夜さん» 太宰さん!!来ました!!!やっっと…!!ありがとうございます🙏 (6月16日 22時) (レス) id: 6e87b82d01 (このIDを非表示/違反報告)
百華夜(プロフ) - 太宰さん!早く信者ちゃん助けに来いやぁぁ!!此のお話凄く好きです! (2023年4月27日 17時) (レス) @page10 id: 4a0468ad2f (このIDを非表示/違反報告)
サヤカ(プロフ) - 太信愛を感じるっっ!だざいさーーーーーーーーん!!!!www(ありがとうございます!) (2023年3月4日 8時) (レス) id: 560ee3c2e1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:サヤカ | 作成日時:2023年2月1日 0時

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