78.土の壁 ページ4
かどわかされたAが目を開けて、最初に飛び込んできたのは茶色の天井。ぼぅとした意識の中で、彼女は自分が布団に寝ている事が解った。
『(どこここ。あれ、私何してるんだろう......?)』
朧気で、視界が水中のように不安定。なにか思い出そうとしても、頭は空っぽ、空気を掴む感覚だった。
探偵社の厭な推理が一つ当たった。
Aは部屋を見回すと、ここが地下であると推測できた、なぜなら、土の面がむき出しの壁が四方を囲っていたから。扉は一つだけある。お洒落な西洋風の棚や机椅子、キラリと光る調度品や装飾品が並び、むき出しの電球がいくつもつけられた部屋はとても明るく、寝起きのAには眩しかった。
「A!! 起きたんだね......! よかった......」
扉が開き若い男が入ってきた。160cm程の背丈で清潔感のある短髪、いかにも好青年といった風貌。しかしこの青年は誘拐犯である。
『?』
Aはその男に見覚えは無かった。が、知らない気もしなかった。
男は、優しく、優しく、生まれたての赤子に接するかのような柔らかな物腰で、話し続ける。遠慮がちに笑う口、少し傾げられた首、たれた眉尻、細められた目には哀愁がにじんでいる。
「A、僕がわからない?
『ハルテくん......』
自然と発することのできた名前は、口に馴染んでいるようだった。
「記憶が混濁しているのかな、ゆっくりでいいよ。思い出せない様なら、無理に思い出さないで構わないから、ちゃんと僕を見て?」
寝台に腰掛けるAを下から覗き込む形で、男——蜷場ハルテはしゃがんで云った。
Aはこんなに優しい人を思い出せない不甲斐なさに唇を噛んだ。目のふちには涙が溜まり、今にも零れ落ちそうな程うるんでいる。
その表情はなんとも云えぬいじらしさがあった。蜷場の胸はドクンと大きく音をたて、目の前の少女を抱きしめたい衝動に苛まれたが、頭を撫でてAを落ち着かせることに専念した。
今そんな事をしたら、この人は自分が怖くなってしまうだろうと、蜷場は考えたのだ。
ついに零れた涙。Aの泣き声はとても静かだった。
『えっと、ハルテくん、聞きたいことがたくさんあって......』
「うん」
暫くしてAは落ち着きを取り戻し、意識もしっかりとしてきた。そこで問うた。
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サヤカ(プロフ) - 柚宇さん» 好き……なんですかねーそうだといいな〜〜!ありがとうございます❣頑張ります!! (7月29日 19時) (レス) id: 2320ebad55 (このIDを非表示/違反報告)
柚宇 - 太宰さん、信者ちゃんのこと好きなのかなー?んーわからない!けど大好きです!この作品とっても面白いのでこれからも頑張ってください!! (7月22日 16時) (レス) @page28 id: 619c9e8827 (このIDを非表示/違反報告)
サヤカ(プロフ) - 百華夜さん» 太宰さん!!来ました!!!やっっと…!!ありがとうございます🙏 (6月16日 22時) (レス) id: 6e87b82d01 (このIDを非表示/違反報告)
百華夜(プロフ) - 太宰さん!早く信者ちゃん助けに来いやぁぁ!!此のお話凄く好きです! (2023年4月27日 17時) (レス) @page10 id: 4a0468ad2f (このIDを非表示/違反報告)
サヤカ(プロフ) - 太信愛を感じるっっ!だざいさーーーーーーーーん!!!!www(ありがとうございます!) (2023年3月4日 8時) (レス) id: 560ee3c2e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サヤカ | 作成日時:2023年2月1日 0時