検索窓
今日:17 hit、昨日:19 hit、合計:16,766 hit

78.土の壁 ページ4

かどわかされたAが目を開けて、最初に飛び込んできたのは茶色の天井。ぼぅとした意識の中で、彼女は自分が布団に寝ている事が解った。

『(どこここ。あれ、私何してるんだろう......?)』

 朧気で、視界が水中のように不安定。なにか思い出そうとしても、頭は空っぽ、空気を掴む感覚だった。
 探偵社の厭な推理が一つ当たった。

 Aは部屋を見回すと、ここが地下であると推測できた、なぜなら、土の面がむき出しの壁が四方を囲っていたから。扉は一つだけある。お洒落な西洋風の棚や机椅子、キラリと光る調度品や装飾品が並び、むき出しの電球がいくつもつけられた部屋はとても明るく、寝起きのAには眩しかった。

「A!! 起きたんだね......! よかった......」

 扉が開き若い男が入ってきた。160cm程の背丈で清潔感のある短髪、いかにも好青年といった風貌。しかしこの青年は誘拐犯である。

『?』

 Aはその男に見覚えは無かった。が、知らない気もしなかった。
 男は、優しく、優しく、生まれたての赤子に接するかのような柔らかな物腰で、話し続ける。遠慮がちに笑う口、少し傾げられた首、たれた眉尻、細められた目には哀愁がにじんでいる。

「A、僕がわからない? 蜷場(になば)ハルテだよ。」

『ハルテくん......』

 自然と発することのできた名前は、口に馴染んでいるようだった。

「記憶が混濁しているのかな、ゆっくりでいいよ。思い出せない様なら、無理に思い出さないで構わないから、ちゃんと僕を見て?」

 寝台に腰掛けるAを下から覗き込む形で、男——蜷場ハルテはしゃがんで云った。

 Aはこんなに優しい人を思い出せない不甲斐なさに唇を噛んだ。目のふちには涙が溜まり、今にも零れ落ちそうな程うるんでいる。
 その表情はなんとも云えぬいじらしさがあった。蜷場の胸はドクンと大きく音をたて、目の前の少女を抱きしめたい衝動に苛まれたが、頭を撫でてAを落ち着かせることに専念した。
 今そんな事をしたら、この人は自分が怖くなってしまうだろうと、蜷場は考えたのだ。

 ついに零れた涙。Aの泣き声はとても静かだった。



『えっと、ハルテくん、聞きたいことがたくさんあって......』

「うん」

 暫くしてAは落ち着きを取り戻し、意識もしっかりとしてきた。そこで問うた。

79.正しい記憶→←77.厭な予感



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (53 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
462人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

サヤカ(プロフ) - 柚宇さん» 好き……なんですかねーそうだといいな〜〜!ありがとうございます❣頑張ります!! (7月29日 19時) (レス) id: 2320ebad55 (このIDを非表示/違反報告)
柚宇 - 太宰さん、信者ちゃんのこと好きなのかなー?んーわからない!けど大好きです!この作品とっても面白いのでこれからも頑張ってください!! (7月22日 16時) (レス) @page28 id: 619c9e8827 (このIDを非表示/違反報告)
サヤカ(プロフ) - 百華夜さん» 太宰さん!!来ました!!!やっっと…!!ありがとうございます🙏 (6月16日 22時) (レス) id: 6e87b82d01 (このIDを非表示/違反報告)
百華夜(プロフ) - 太宰さん!早く信者ちゃん助けに来いやぁぁ!!此のお話凄く好きです! (2023年4月27日 17時) (レス) @page10 id: 4a0468ad2f (このIDを非表示/違反報告)
サヤカ(プロフ) - 太信愛を感じるっっ!だざいさーーーーーーーーん!!!!www(ありがとうございます!) (2023年3月4日 8時) (レス) id: 560ee3c2e1 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:サヤカ | 作成日時:2023年2月1日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。