８９．青空 ページ16
＊＊＊
土にまみれた懐中電灯が壁の一点を照らしていた。蜷場が、探偵社はこっちから来るだろうな〜と、予想した方に唯一の光を向け、虚ろな目でそこを見つめている。
――少し前、蜷場は自分の上着をAに掛けて、その頬を名残惜しそうに撫でた。この時間が、Aといられる最後の時間で、別れる心を固める時間だった。決して、引きずってはならないから。
そして、Aが気絶させてから数分、照らしていた壁に亀裂が入った。
「っ太宰さん！ 光です！！」
その声は、敦のものだ。まだ、Aの記憶が戻っているか不安で、加えて蜷場からの反撃を警戒した、緊張した声だった。
崩れた壁から満を持して太宰が姿を見せた。後に賢治が続く。
「やあ、はじめまして。安心して？ この子に怪我はないよ。」
ひらりと、光のない瞳を隠すために蜷場はわらった。
「……」
「……」
太宰と蜷場はしばし睨み合った。決して
——ザザッ
————ザザザッ
〈賢治ッ、無事か！〉
沈黙を破ったのは国木田だ。賢治の持っていた
「はい！ 今Aさんを見つけました！」
〈そうか……お前たちが居る少し横を崩す、そこへ縄を下げるから登って来い。〉
「わかりました！」
賢治の返事を聞き、ノイズが消えた。
蜷場はAを抱きかかえて立ち上がると、太宰に近づいた。敦は蜷場を警戒したが、太宰は無関心そのものだった。
「君にこの子が持てるかな？」
「無理だね。」
「でも君に、渡したいんだけど。」
「悪いけど、力仕事は私の苦手とするところでね。賢治くんに頼めるかな。」
「本当に？ こんなに軽い子も持てないの？」
「40kgは確実にあるでしょう。ムリムリ。」
「じゃあ、おぶって」
蜷場はどうしても太宰にAを抱えさせたかった。それは、自分のためでも太宰のためでもなく、ただ一人、Aの為に。
蜷場が見る限り、太宰がAに向ける視線に嫌悪の色は無かった。
なら、受け取ればいいじゃないか、この子を。
「君は贅沢だなあ」
肩をすくめ、同情の眼差しを太宰に向けた。
＊＊＊
「っはあぁ〜〜……！」
地上に出た一行は、久しぶりの外の光に目をすぼめた。敦は外の空気を目一杯に吸うと、寝息をたてるAをに目線を下した。
「(結局僕が抱えてる……)」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 462人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
サヤカ(プロフ) - 柚宇さん» 好き……なんですかねーそうだといいな〜〜！ありがとうございます❣頑張ります！！ (7月29日 19時) (
レス) id: 2320ebad55 (このIDを非表示/違反報告)
柚宇 - 太宰さん、信者ちゃんのこと好きなのかなー？んーわからない！けど大好きです！この作品とっても面白いのでこれからも頑張ってください！！ (7月22日 16時) (レス) @page28 id: 619c9e8827 (このIDを非表示/違反報告)
サヤカ(プロフ) - 百華夜さん» 太宰さん！！来ました！！！やっっと…！！ありがとうございます🙏 (6月16日 22時) (レス) id: 6e87b82d01 (このIDを非表示/違反報告)
百華夜(プロフ) - 太宰さん！早く信者ちゃん助けに来いやぁぁ！！此のお話凄く好きです！ (2023年4月27日 17時) (レス) @page10 id: 4a0468ad2f (このIDを非表示/違反報告)
サヤカ(プロフ) - 太信愛を感じるっっ！だざいさーーーーーーーーん！！！！ｗｗｗ（ありがとうございます！） (2023年3月4日 8時) (レス) id: 560ee3c2e1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：サヤカ | 作成日時：2023年2月1日 0時
