降谷零 中編小説＊3

【羨望】 ページ22

なんでも持ってる貴方に私は必要ですか？



仕事が出来て

上司から認められて

部下から信頼されて

人を笑顔にできて

人から必要とされて

誰にでもなれて



私には無いものを持っている貴方がー





「何もない」





口癖のようにそう言う貴方は
気づいていないだけ





目の前にある沢山の幸せに





本当に何もないのは私で





貴方が羨ましい








薄暗い部屋の中で貴方が息を呑む
意味がわからないと言うように目を見開いて私を見上げる

貴方の呼吸が荒くなっていく
右手で胸を押さえながらベッドヘ沈んでいく貴方の体を眺めて





『さようなら』





時計の針が重なり0時を迎えた





必要とされている貴方に



不必要な私はいらない





この白い世界に私はいらない



貴方が薬で眠っている間に住み慣れた部屋を出る
合鍵をポストへ入れタクシーを拾い待ち合わせの場所へ


ネオンが光る街の裏露地に見慣れた姿が見えてきた
銀の長い髪を耳にかけ黒いドレスを見に纏う女

煙草を吸っている女は私に気づくと妖しく笑った



「彼はどうしたの？」

『さぁ？それより…』

「焦るとろくなこと無いわよ。1本どう？」

『…いただきます』



ベルモットから受け取った煙草に火をつけてゆっくりと吸うと肺が悲鳴を上げた
久しぶりに吸った煙草は不味かった





いつの間にか貴方に染められた私

黒から白に塗り潰されて
貴方に幸せを貰って忘れていた





最初からわたしの手は赤く染まっていた





もう

戻らない
戻れない





白を黒に染めたのは紛れもなく私

眩しすぎる白は私には似合わない




『約束は守って下さい』

「そうね。あなたが私の為に働いてくれるなら、ね？」



女はバッグから拳銃を取り出す
慣れた手つきで装填していく姿に背筋が凍る





「今日からあなたはメアリー・ピックフォードよ」





そう言って私に拳銃を渡すベルモットの顔を見て眉間にシワが寄る





『…わざとですか？』

「さぁ、どうかしらね」





深緑色の目を細めてくすくす笑うベルモットは私の腕を取り歩き出す





華やかな赤い色

ほんのりとした甘さ





女から貰った名前は私を落としていくには十分で

転がり落ちてしまった私にはもう起き上がることは出来ない





黒に染まった私はもう誰にも必要とされない

欲しいの物は手に入らない





『あなたになりたかった』





貴方をーー





貴方が幸せに気づけるように





貴方を壊してあげる

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