戦うという事。01 ページ47
ドォオン、というモビーディック号全体を揺るがすとんでもない音に昼寝をしていたAは跳ね起きた。寝起きで働かない頭のままベッドから飛び降り靴をはいて、素早く衣服を整える。
『敵襲だぁああ！！！』
ノブに手をかけたところで聞こえた怒声にも近い叫び声に動きを止める。廊下からはバタバタと船員が駆けて行く音がする。マルコにエースにジョズにサッチ――手配書に載る様な面子が揃っているんだ、俺の出る幕は無い。そもそも彼らの下には大量の部下がいる。ビルもメラもかなり強い。
だったら、俺、此処にいた方が邪魔にならなくって済むんじゃ？とは思ったものの、色々心配だ。エースが怪我したりしないかなとか。船が壊れたりしないかな、とか。
扉の前で暫し悶々とした末に、Aは恐る恐るノブを捻った。既に人気の無い船内を小走りで駆け、甲板に出るための扉を勢いよく開けた。
「ぐはっ！？」
「は？」
結構な衝撃が扉に当たった。ついでにいうとカエルの潰れたような声も聞こえた。もしや、誰か扉の前にいたのか…いや、絶対そうだ。そうに違いない。
「うわー…ごめん」
でも、こんな時に出入り口に立つ方が悪いよね。心の中で相手に罪を擦り付けながら、俺は謝罪を口にして扉と壁にサンドされている人を確認する。
後頭部にはたんこぶ、鼻は真っ赤に腫れ上がっていて痛そうだ。サンドイッチになった名も知らぬ男は気絶したようで、そのまま地面に転がった。
「お頭！！クソ！テメェ！！」
「は？お頭って……ぬおぅっ！？」
カトラスが目の前を通り過ぎた。一歩後退するのが遅れたら、顔面が削げ落ちる所だ。ひらひらと俺の黒い髪が数本宙を舞った。突然の攻撃に心臓がバクバクと五月蝿い。
間合いをとり、Aは胸を押さえながら男を睨んだ。
というか、この男今何て言っただろう。お頭？もしかしなくても、俺がサンドイッチしちゃった男がお頭だったりしちゃう系？
勢いがあったとはいえ、扉にぶつかっただけで気絶する船長とは情けない。弱い俺が言えた義理じゃないが。
「ちくしょう！お頭…！殺してやる…！！」
「いや…ちょっと落ち着こうよ…」
カトラスを握り締め、血走った目が此方を睨む。今にも飛びかかってきそうな男にAは顔を引きつらせた。いやいや待て待て、待とうか君。俺は丸腰なんだよ！？だからその危険なものを鞘へしま――
「――おぉおうっ！？」
飛びかかってきた男に俺はなけなしの反射神経で後ろに跳ねるようにして避けた。
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作者名：1 | 作成日時：2021年3月19日 20時
