全力特訓。01 ページ45
時は流れるように過ぎ、Aが白髭海賊団の一員になって二ヶ月は経った。その頃には対人恐怖症もなりを潜め、船での暮らしにも随分となれた。
この世界の言語(教えてもらったら英語だった)もまだ完璧ではないが、ほぼ読めるようになった。マルコのスパルタ教育のお陰だ。どうしても分からないところがあればマルコやサッチに聞いて教えてもらっている。
「Aも混ざろうッス!」
「そうッスよ〜!」
甲板の隅でのんびり座っていると、真ん中で組み手をしていたビルとメラが手を振ってくる。混ざる。とは十中八九組み手の相手になれ、という事だろう。組み手、いや、喧嘩すらやったことのない俺は顔を引きつらせて首を横に振る。
ビルとメラの組み手は何度か目にしたが、とてもじゃないけど俺が入っていい戦いを出来るような雰囲気ではなかった。
「何でッスか!?」
「そんなのだから、へなちょこって馬鹿にされるんスよ〜!」
なんとでも言え。俺はそんな危ない組み手に入りたくない。意地でもここを動かないと、膝を抱える腕に力を込める。
「A」
不意に隣から呼ばれた。顔を上げると、太陽光を反射させる眩しい金髪が視界に入る――マルコだ。Aは眩しさに目を細め、マルコに何と問い返す。
「お前、どれくらい戦えるんだよい?」
「え、戦う?」
「俺たちは海賊だい。他の海賊と戦う事もある……その時にお前を庇いながら戦えるような余裕なんてない」
早い話マルコが言いたいのは、自分で戦えるようになれ、という事だ。この船が平和すぎて、忘れていた。ここは海賊船なのだ。彼らの腰に銃や剣が携えられている。それが血に染まる時も、あるのだろう。
異世界人だから戦いなんて無理。そんな理由が通用する訳が無い。
俺は俯き、膝に顔を埋めた。
「俺、全然戦えない、です……」
「なら今日から特訓しろい。これは隊長命令だい」
「…………」
「ビル、メラ!Aを鍛えてやってくれよい!」
組み手をしていた二人が遠くから了承する声が聞こえた。黙り込んで座ったままでいると強引に腕が引かれて、立ち上がらされる。
「せめてビルとメラと互角になるくらいにはなれよい」
それだけ言うと、マルコは忙しそうに船内へと消えていった。甲板に残された俺はその場に立ち尽くす。
ビルとメラと互角って……明らかに、無理です……マルコ隊長。
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作者名:1 | 作成日時:2021年3月19日 20時