エースと。02 ページ27
モビーディック号はとても大きく、Aが迷子になるのにそう時間は掛からなかった。廊下には沢山扉があるが、勝手に開けるのは戸惑われる。白髭海賊団の船員は多く、モビーディック号の船室も大半が誰かの部屋だ。
まだ人と話すのはちょっと恐い。近づくのも。
お父さんは別だけれど。
部屋に戻ろうにも似たような扉の続く廊下のせいでどれが自分の部屋だったのかさっぱり分からない。がっくりと項垂れて、俺は壁に凭れ掛かりそのままずるずるとしゃがみこんだ。
「お前どうしたんだ？腹減ったのか？」
「ぇ……うひっ！？」
顔を上げると予想以上に相手の顔がすぐ傍にありAは奇妙な悲鳴を上げて仰け反った。
ある程度距離をとったところで、Aは話しかけてきた男を確認する。オレンジ色の帽子を被り、両頬にはそばかすがある若い男だ。
上半身裸でその腹は六つに割れている――そういえばｴﾈﾙも上半身裸だったのを思い出し、俺はこの世界の人は上半身出すのが普通なのかと考える。しかし、もしそうだったとして、俺は筋肉もないまっ平らな腹を見せたくはない。
男は屈みこみ、Aと目線を合わせてにっと笑う。
「食堂行こうぜ、サッチの飯はうめぇんだ！」
裏表の無いその笑顔にAは無意識のうちに首を縦に動かしていた。
Aの返事を聞いた男は跳ねるように立ち上がり、Aの腕を掴み歩き出した。
「あ、あ……あのっ！」
男の腕の強さに振り払う事も出来ず、俺は引きずられる。慌てて声を上げると男はにこにこ顔を此方に向けて、何だと尋ねてくる。腕を掴まれて引きずられたせいで俺はだらだらと尋常ではないくらいの脂汗がにじみ出ていた。
「う、腕、離して……」
「あ！わ、わりぃ……痛かったか！？」
Aの全身に滲む汗を見て、男は腕を離してくれた。それに安堵して、Aは小さく息を吐き出し、一歩後退する。
「ごめん、違うんだ……その、俺まだあんまり、慣れてなくて……」
だから、貴方がどうってわけじゃない。俯きながらぼそぼそと呟くようにいうと、男は気を悪くした様子もなくそっかと頷いた。
「んじゃ、これから慣れていこうぜ。俺はエースってんだ。お前は、A……でよかったか？」
「う、うん！合ってるよ、えっと……ありがとう、エース」
男――エースは俺との間に開いた空間にも気にせず、にっこりと笑った。
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作者名：1 | 作成日時：2021年3月19日 20時
