絶望の日々。02 ページ14
首元で金属の輪がカチャ、と音を立てた。
そこで漸く俺は自分の姿がドラゴンではないことに気がついた。
「……ぁ……、」
「おい、てめぇ、言ったよなぁ？」
いつもより低い船長の声色に俺は身体を震わせる。喉がひゅ、と音を立てた。上手く息が出来なくなる。
「許可無く人間に戻るなってよぉ……！」
乱暴にお腹を蹴られ、甲板に仰向けに転がる。
痛みに声を上げる間もなく鋭利な物が俺の左肩に突き刺さった。息がつまり、頭が真っ白になる。
血が甲板に流れ落ち、木目に染み渡っていく。
ボロボロになった服を抱えるようにして必死に身体を丸めた。それが、俺が今出来る精一杯の防御だった。
「何丸まってんだよ、クソが！」
「い"……」
「ギャハハ、お頭あんまりやっちまうと死んじまいやすよ！」
前髪を勢いよく引っ張られ、顔を上げさせられる。俺の様子を見てゲラゲラ笑う船員の声が遠くから聞こえた。
「殺しはしねえよ。万一飽きたとしても能力者だ！マーケット――行きだ！」
ガッ。言葉に合わせて思い切り顔を床に叩きつけられた。目の前に火花が飛び散り、その衝撃で視界が回る。額から夥しいほどの血が流れてくる。だんだんと意識も遠のいてきた。
だが船長は攻撃の手を休めず、俺の意識が飛びかけても冷水を掛けて、強引に目を覚まさせた。船長の暴行が止んだのは太陽が沈みかけた頃だ。何時間か、なんて考えたくも無い。
身体はもう指先一本も動かせなかった。うつ伏せになったまま俺は透明な雫を流す。
どうして俺はこんなところにいるんだろう。
普通に生きて普通に就職して、あわよくば結婚して暖かな暮らしをする筈だったのに。
「……ぅっ……」
泣いたところでこの海賊船に俺の身を案じてくれるような心優しい人はいない。でも泣かずにはいられなかった。この苦しさを辛さを堪えるには涙を流すしかなかった。
明日の朝にはドラゴンに戻っておかなければ、また今日みたいにボコボコにされるだろう。
俺は動かない身体を強引に動かし、身体をドラゴンに変化させた。
白い鱗は沢山の血で赤黒く染まり、所々鱗が剥がれている。お腹や腕に出来た傷口に首を伸ばし、長い蛇のような舌で舐めて消毒した。
消毒液や包帯なんて貰えない。だから、せめて傷口が綺麗になるように舐めた。この生傷が治る事なんてもうこれから一生無いんだろう。
こんなのがずっと続くなら俺はもう殺してくれた方がいいと、思った。
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作者名：1 | 作成日時：2021年3月19日 20時
