ビルドが創る明日-7- ページ18
戦兎Side
ちょうど小学生が帰る頃の時間で、花屋の玄関先で花を手入れしている彼女は子供達におかえりと声をかけていた。
「そういえば…あいつの将来の夢ってお花屋さんだったな。なんで分かったんだよ」
「nascitaに置いてある花瓶に書いてあったんだよ」
カウンターに置いてある花瓶に書かれた苗字が同じだったから。
記憶してて良かった。
「行かないのか?」
「記憶が無いのに、俺が会いに行ったところで混乱するだけだろ」
「じゃあ俺が」
俺は茂みから顔を出してAに近づいた。
Aは俺を見るなり笑顔を向けてくる。
『いらっしゃいませ!本日はどういったお花をお探しですか?』
「えぇっと…これとか」
俺は適当に近くにあった薄紫色の花を指さした。
『これですか、これはシオンというキク科の植物で花言葉は……』
Aは説明をやめてしまった。
俺を見て、目をぱちくりさせている。
「どうかしました?」
『…失礼ですが、どこかで会ったことありますか?』
またこのパターンかと苦笑いしてしまう。
『えぇっと…同じ大学だったとか?いや、でも最近のような…お店に来られたことあったりします?』
「佐藤太郎、ですか?バンドマンの」
『佐藤…?いや、知らないです。そんなんじゃなくて…えっと……』
「すみません、急用思い出しました」
『えっ、あ、ありがとうございました』
このままAの記憶の扉が開いてしまうのが怖くなって俺はその前に逃げた。
「やっぱりお前が行けよ」
Aの記憶の扉を開けるのは俺よりも万丈の方が適任だ。
でも万丈は渋ってなかなか行こうとしない。
「いや俺は……あっ!」
万丈は突然走り出し花屋とは逆方向に行ってしまった。
そのあとを追いかけようとした時、肩を叩かれる。
『財布、落としましたよ』
「あ、ありがとうございます」
Aは俺に財布を渡すと、万丈が走っていった方向を見つめた。
その目はほんの少しだけ俺が知っている目になっていた。
『あの、今走っていったのって…』
「…あなたのことが大好きな人です」
『え?』
「じゃあ、また」
俺はAに笑顔を向けて万丈を追いかけた。
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作者名:Non | 作成日時:2022年5月7日 13時