見守ってるだけですよ。【com.】

episode 29 ページ30

ゆうまside

．





その男に見覚えがないといえば嘘になる。



あいつは前からやばいとは思っていた。



Aちゃんのことが大好きだと言い張る変なストーカーみたいなやつだったし、やめるように言ってもにやにやするだけで君の悪い男だった。





徹底的に抑えるべきだったんだ。




こんなことになってしまう前に。






今更悔やんでも仕方がないのに、居た堪れない気持ちになりぐっと拳を握る。





だが，今はそんな後悔をしている暇はない。



緊急事態なのだ。






なるべく男に気づかれないようにそっと近づいていく。


Aちゃんも気づいていないみたいだが、この状況ではその方がいいのかもしれない。


混乱させてしまってはいけないから。









男がまた何か言ってAちゃんに包丁を振り上げる。




危ない。



Aちゃんが刺される。






頭が真っ白になった僕は反射的に男の急所を蹴ってダウンさせることに成功した。


音が鳴るくらい強く蹴ってしまった。





痛そうだな。




どさっ、ともう一度鈍い音がして男は無言で倒れた。



意識を失っているみたいだ。







Aちゃんはぎゅっと目を瞑ったまま、動かない。







ゆま「もう、目開けていいですよ」



そっと声をかける。




恐る恐る目を開けたAちゃんは僕の方を見て目を見開く。

　







段々潤んでいく瞳から涙が溢れる。



何か言いたいことがあるみたいに口を動かすけど、言葉が出てこないみたい。



ただひたすら、涙を流している。












そんな姿ですら愛おしいと思ってしまう僕は、
きっと君に夢中すぎるのではないか。

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