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『くぁ……』
Aは千空におめでとうと告げ、天文台を後にしていた。ゆっくり星達を見て欲しかったし、なんか眠くなってきたし。
『(飴、また今度でいいか)』
以前ほむらに試食してもらった飴。ちょうど良かったし、プレゼントとしてこのタイミングで渡そうかと思っていたけど、こんな時間だしな。また別の時に渡そうと考えたAは再び気の抜けたあくびをした。
ゲン「Aちゃん」
Aが天文台から出てしばらくして、同じく天文台から出てきたゲンが声をかけた。要件は「千空ちゃんまだ天文台に居るだろうからいってきなよ」とのこと。はじめは渋っていたが、物理的にも精神的にも背中を押され、Aはその方向へ足を進めていた。
Aの気持ちを知ってからゲンは何かと2人が一緒にいられるよう計らっている。Aからすれば『告白するつもりはない』って言いましたよね、と怒気が溜まっていく一方である。それに、
『(これ以上はホントに...)』
千空「A？」
『...』
千空「やっぱお前だったか」
上の天文台から顔を覗かせた千空と視線があった。ちょうど彼のことを考えていたからか、一度大きく心臓が跳ねる。そして赤い瞳が柔らかい色を示した。さきほどまでの眠気はどこへやら、一気に目が覚めてしまった。
ぐらぐらぐら
『改めましてお誕生日おめでとうございます。これ、よかったらどうぞ。食べるにはちょっと遅い時間ですけど』
千空「...飴か？」
『あったり〜』
千空「どーも」
『お、今食べてくれるんすか』
千空「ああ」
「ブドウ糖とれってどっかの後輩さんに言われたしな」と飴を口に入れた千空はいたずらっぽく片頬を引っ張って笑う。
『モチベ的なの上がりました？』
千空「別にあってもなくても変わんねーよ」
『あらら、残念』
その左横顔を見てAは口角を上げる。そして空を見上げれば一等星シリウスが輝いていた。それを見つけて大きく開いた瞳に光が差し込む。凱風がふわりと橙色の髪を持ち上げると、視界の端で千空の顔がこちらに向いたことに気づき、反射的にそっちへ視線を移す。
『(……あれ)』
そして視線が固定された。その赤色がだんだんと優しさに染まっていく様子から目が離せなかった。いや、優しさ？どこか違うような感じがするがAにそれは分からない。その瞳の奥に何かが見えた気がした。
ぐらぐらぐらぐら
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作者名：ゆま | 作成日時：2023年8月8日 12時
