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データ95 ページ6

『そんなこんなあったのに父は見て見ぬふりしてたんで嫌いになりました。なのでお母さんの苗字使わせてもらってるんす。以上、EPISODEA。これにて閉廷〜』

ゲン「……いや重ッ!てか閉廷ではないよね」


父が嫌いだからそっちの苗字を使わず、お母さんの旧姓の方を名乗っている。これ自体には彼女の言う通り深い意味はないのかもしれないが、その理由となった父が嫌いになるまでの過程が重い。


『すみませんおんもい空気にしてしまって。でもさっき言った通りトラウマとか全然ないっすから!大丈夫でっす!』


『はい、休憩終わり!』と手を合掌の形に合わせたA。パチンという音と共に会話の終わりを切り出し、笑顔を浮かべると科学倉庫から出て作業に戻る。いつもと同じ笑顔を浮かべるAを2人は黙って見つめていた。


ゲン「トラウマになってないって、多分嘘よね」

コハク「あぁ、私もそう思う」


コハクが考えていたのは御前試合でAが倒れた時のこと。彼女の容態をみるため千空が触れた時、一瞬身体を強ばらせたのも男の人に触られたことを思い出したから。露出が多い服を着たくないというのも同じような理由だろう。異性に対して怖がる様子は見せていないが、そういうトラウマが残っているような言動も見せる。

その隣、ゲンも同じく考え込んでいた。Aに事情聴取した際のこと。確かに彼女は『いいんですかね、私が先輩を好きでも』と言っていた。そう呟いた彼女の心境を始めは「この感情に確信が持てないのにそう表現してもいいのか」ということだと思っていたが、彼女の過去を聞いて「自分はあんなことをしていたのに好きなんて言ってもいいのか、好きでいていいのか」という意味も含まれているのではと考えついた。



あんな出来事があったせいで彼女は自分に自信を持てなくなっている。自分なんかが人を愛してもいいのかと躊躇している。これは彼女の想い人である千空が悪いというわけではなくAの中での問題。


ゲン「(だけど、)」


Aは最近どこかこらえるような表情をすることが多くなった。溢れ出る何かを必死に塞き止めるような表情。そのことにはゲンも気づいていた。そしてその表情の真意を読み取ったメンタリストは静かに笑みを浮かべる。
もしかしたら彼女が一歩踏み出すのはそう遠くないのかもしれない。

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作者名:ゆま | 作成日時:2023年8月8日 12時

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