後輩女子的。chapter3【Dr.STONE】 (ページ12)

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データ101 ページ12

千空「A」

『先輩。どうしました？さっそく真空管作り始めます？』

一旦話に区切りがついた時、千空の声が響く。内容からわかる通りAをお呼びだ。足音から千空がくると分かっていたらしい彼女は声がかかる前にくるりと振り返る。そして昨日の告白なぞなかったかのようにふっつーに会話し始める。その対応が不満だったからか千空は僅かに顔を歪ませた。対してコハクとゲンは面白い物を見つけたとでもいいたげな顔。

千空「あ゛ーそうだ。そろそろ始めっから手伝え」

『はーい』

踵を返して歩き出す千空。Aも後を追いかけて歩き出す。暫く進み、その背に追いついたところで唐突に千空が振り返る。そしてAの腕を掴んだ。決して痛くはないが、逃がさないという意志がみえるくらいの強さで触れた部分からは彼の体温が感じられる。

千空「の前に昨日の続きだ」

『……』

片方の口角を上げ、目を細めるといういかにもいたずらっ子がしそうな表情を見たAは苦笑いを零す。

千空「A」

出そうとした声を遮るように呼ばれた自身の名前。さっきとは大きさもトーンも違う音がスっと耳に入って鼓膜を刺激する。名前なんていつも呼ばれているはずなのに、その飴玉を溶かしこんだような声だけで思考が止まる。口は無防備に開いたままは塞がらない。

『(あ……)』

いつもと同じ視線、いつも見ていた視線、その視線が愛しさを含んでいるとAは分かってしまった。愛しいをすべて詰め込んだような視線がグサリと心に優しく、だけど深くしっかり突き刺さる。

千空「好き」

わざとか偶然か、おそらく前者であろう。千空が発したのは昨日Aの口から零れたのと全く同じ言葉。小さくもはっきり紡がれた言葉をこの耳はきっちり掬い上げて脳まで運ぶ。ただでさえAは千空の声を好いているのに、その声で甘美なことを囁かれてしまえばもう彼のことしか見えなくなる。

そして彼女の脳の処理が終わる前に千空はその頬へ手を伸ばす。愛おしそうに細められたその目も、自分より大きなその手も、酔いそうになるほど心地良いその声も、今のAにとっては全てが毒だった。彼のせいでおかしくなってしまいそうだ。どこか肌が焼け付くような感覚さえ覚える。