４章ー８ ページ45
だとしても、折れるわけにはいかない理由がこちらにはあるのだ。そもそも決心をしたタイミングでゾムさんがいたから声を掛けたものの、別に彼が同行しなくてはならない理由はない。断られたところで、何も変わりはしない。
「別に忙しいなら構わないよ。ひとりでも行くつもりだったし……そうだね、シャオロンさんにでもメールしてみようかな」
「は？」
「ゾムさんは嫌なんでしょう？」
そう言うと、ゾムさんはこめかみをひくりと引き攣らせる。彼が頑なに拒む理由を知りたくてカマを掛けたつもりだったが、反応を見る限りどうやら彼に何か問題があるというよりかは、わたしが我々国に立ち入ることをよく思っていないらしい。理由は見当もつかないが、彼はあくまでも沈黙を貫くつもりらしく未だ口を固く閉ざしている。だからといって自分の問題を誰かに打ち明ける気にはまだなれないし、彼にも同じく譲れないものがあるのだろう。
わたしは静かに体を起こして、サイドテーブルに置かれた携帯電話を手に取った。引くつもりはないという意思を伝えるには、こうするのが一番だ。慣れた手つきでアドレス帳を開く。そこからシャオロンさんの番号を選択したとき、もう手の中には携帯電話はなかった。掠め取った犯人をジト目で睨み付けると、なにか言いたげな様子で視線を彷徨わせたあと、諦めたようにため息を吐いた。
「……分かった、俺が案内するから」
「どうもありがとう」
にっこりと笑ってみせれば、先ほどまでの刺々とした彼の雰囲気はなりを潜める。お互い深くは語らないままの押し問答にはなってしまったが、彼はなんだかんだでわたしには甘い。懐に入れた相手には強く言えない質なのだろう。
「ほんま適わんわ。全部分かっとんちゃうかって疑いたくなるくらい」
「あなたがわたしと出かけたいと思ってるってことは理解してるよ」
「ああせや、そんでええわ」
「随分と投げやりだね」
「ええからお前はさっさと寝てくれ」
そう言って、ゾムさんは私の顔を隠すようにすっぽりと布団を被せた。視界が暗闇に包まれるとなんだか無駄口を叩く気も薄れ、わたしはすぐそばに彼の気配があることを感じながら目を閉じた。次に目を醒ましたとき、きっともう彼はいないだろう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 627人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
遊麻(プロフ) - たこぱちょさん» コメントありがとうございます。応援本当に励みになります。スローペースではありますが必ず更新致しますので、引き続きよろしくお願い致します。 (2018年10月30日 10時) (
レス) id: 783499c5d1 (このIDを非表示/違反報告)
たこぱちょ(プロフ) - 本当に面白いのでゆっくりで良いので更新頑張ってください！ (2018年9月4日 17時) (レス) id: 6746a77822 (このIDを非表示/違反報告)
遊麻(プロフ) - kanonさん» コメントありがとうございます。想像以上にゾムさんが人気で恐縮です、出番までもう少しお待ちください！亀更新ですが頑張ります！ (2018年8月3日 1時) (レス) id: bbd918f008 (このIDを非表示/違反報告)
kanon - ゾムさんかっこよすぎてちょっと叫びました(笑)更新待ってますね。頑張ってください！ (2018年7月11日 23時) (レス) id: e0a7914592 (このIDを非表示/違反報告)
遊麻(プロフ) - みんさん» 長らく更新していないのにコメントくださってとても嬉しいです。ありがとうございます。亀更新になりますが、お楽しみいただけると幸いです。 (2018年5月24日 17時) (レス) id: 175c4c32e1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：遊麻 | 作成日時：2017年12月7日 16時
