３章―１１ ページ19
疑問を抱きながらも、わたしはオスマン様に誘われるままに廊下を進み、やがて休憩室として使用されている一室の扉の前へと案内された。彼は戸を数度叩くと、「僕や、開けてくれる？」と声を掛ける。先ほどとは打って変わって、砕けた口調に困惑しながらも、わたしはじっと室内からの反応を待った。
ほとんど間を置かず、返事の代わりに返ってきたのはガチャリと鍵の解錠される無機質な音。オスマン様は隣に立つわたしに一瞬視線を寄越した後、その取手に手を掛けた。音ひとつ立てず静かに開かれた扉の向こうは薄暗く、日はすっかり沈んでしまっているというのに照明すら点けていないらしい。だが窓から差す月明りのお陰で、目視でもある程度室内が伺えた。
部屋に設けられた大きな出窓には、一人の男が腰掛けている。逆光のせいではっきりと色までは視認できないが、ダーク調のスーツに身を包み、男性にしてはやや長めの髪。そして退屈そうに細められた目の隙間からは、見慣れた緑が鈍く光を放っていた。
「･･･ゾムさん？」
「おん」
室内へ一歩踏み出し名前を呼んでみれば、短い返事が返ってくる。その表情から予想していたよりはいくらか柔らかい声色だったことに、わたしは人知れず安堵した。
まさかゾムさんと知り合いであることをオスマン様に知られているとは思わず、”呼んでくるように言われている”と告げられた時は内心ドキリとした。だが状況的に考えれば、その相手が彼であるということはすぐに予想がつく。彼が自身の交遊関係を知られることをあまり良しとしていないのは知っていたが、これだけ何人も我々国に知り合いがいれば隠しきることが難しいのは当然なのだから。
「言われた通り、Aちゃん連れてきたで」
そう言いながらにんまりと笑うオスマンさんは私の両肩に手を置くと、ずいと前へ押し出す。……Aちゃん？わたしは触れられているということよりも、その違和感のある呼称にどぎまぎとさせられる。構えていただけあって、先ほどから彼の口から飛び出す身内に対する砕けた口調はかえって心臓に悪い。そんな狼狽えているわたしを他所に、ゾムは腕を組んで大きなため息をひとつ落とした。
「おっそいわ。待ってるっちゅうのに、何のんびりしとんねん」
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遊麻(プロフ) - たこぱちょさん» コメントありがとうございます。応援本当に励みになります。スローペースではありますが必ず更新致しますので、引き続きよろしくお願い致します。 (2018年10月30日 10時) (
レス) id: 783499c5d1 (このIDを非表示/違反報告)
たこぱちょ(プロフ) - 本当に面白いのでゆっくりで良いので更新頑張ってください！ (2018年9月4日 17時) (レス) id: 6746a77822 (このIDを非表示/違反報告)
遊麻(プロフ) - kanonさん» コメントありがとうございます。想像以上にゾムさんが人気で恐縮です、出番までもう少しお待ちください！亀更新ですが頑張ります！ (2018年8月3日 1時) (レス) id: bbd918f008 (このIDを非表示/違反報告)
kanon - ゾムさんかっこよすぎてちょっと叫びました(笑)更新待ってますね。頑張ってください！ (2018年7月11日 23時) (レス) id: e0a7914592 (このIDを非表示/違反報告)
遊麻(プロフ) - みんさん» 長らく更新していないのにコメントくださってとても嬉しいです。ありがとうございます。亀更新になりますが、お楽しみいただけると幸いです。 (2018年5月24日 17時) (レス) id: 175c4c32e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：遊麻 | 作成日時：2017年12月7日 16時
