第七十二話 親心 ページ26
A母「私たちはこれで帰るけど・・・A、少しいいかしら？」
『はい…？』
A母「…さっきの話、本当に嬉しかったのよ？」
『嬉しい…？』
A母「えぇ。二人の顔を見たら、私達が今まで二人に我慢ばかりさせていたと気付いたの。親のエゴで二人を縛っていたのかもしれないってね」
親のエゴ。それはおそらく子供に幸せになって欲しいと願う、親として普通の事だ。お母様もお父様も、私の事を真剣に考えて愁との婚約を決めた筈だ。だから、結果としては何も変わらないが、私達が望んでいるか否かでこの件を知る全員の気持ちが変わった。
A母「ちなみに、どっちから告白したの？ちゃんとお互いに“好き”を確認して、恋人になろうって決めたのよね？」
『…気持ちを伝えてくれたのは愁の方です。しかし、恋人になろうと言ったのは私です。正直昔のままでも状況は変わらないかもしれませんが、誰かが決められた人生ではなく、自分で決めた人生を歩みたいと思ったのです。今までは決定する勇気すらなかったのに、不思議です』
A父「花梨が背中を押してくれたんじゃないか？」
お姉様が・・・？
A母「そうね。・・・もう花梨のようになろうって思わないで、Aの人生を歩みなさい」
『…何故それを』
A母「わかるわよ、年々Aが花梨と似てくるんだもの。笑い方も、話し方も、服の好みね。…でも、AはAよ。花梨も愛しているけれど、Aのことも同じように愛しているわ。それが、親心というものなのよ？」
A父「二人共かけがえのない娘だ。でなきゃ、Aの為に愁君を結婚相手にまで選ばない」
そういうものなのか…。
ずっと、私に隠れて姉の死を悲しむ二人を見て、私が死んだときも同じように悲しんでくれるか不安だった。姉の真似をすると二人がいつも以上に明るくなった気がしていた。今思えばあれは、無理に明るく振舞わないと私を心配させると思っての黄道だったのかもしれない。いつだって両親は、私の前では明るく笑顔だった。
『…ありがとうございます。私は、私だけの人生を歩みます』
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A母「そういえば、Aとの婚約を始めて愁君に相談した時、あの子なんて言ったと思う？」
愁が？当時小学校6年生の愁は、何と言ったのだろう…？
A母「“Aちゃんを守りたい”ですって」
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作者名：ｉ | 作成日時：2023年12月7日 12時
