特別な私の皇帝5【野坂悠馬】 (ページ38)

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こんな方法しかない。けれど、これしかないんだ。

スマホを取り出し、Aに電話をかける。

Aはアラーム音がよく聞こえるように最大にしている。飛行機の中でアラームが鳴ったこともあり、Aの両親はさすがに知らないはずだ。

かなりの音量だから、スタジアム内にまだいれば聞こえる。人はほとんどいなくなり、響く。

鳴ってくれと必死に願い、耳を澄ませる。

数秒たっても聞こえない。

もうスタジアムにはいないのか…、諦めて切ろうとした。

遠くで高い音が聞こえた。微かしか聞こえなかったその音はどんどん近づいてきた。

Aの通話時の通知音はこの音だった。だから、Aなはずだ。

Aの両親がよほど焦っているのか、Aだけなのか、分からないけれど、音は止まない。

音の聞こえる所に向かって走る。

途中、灰崎くんを見つけ、ついてきてもらった。

「この音だな？」

「あぁ。まだ遠いけど、こちらに向かって来てるよ」

ある程度走り、僕たちの前に来るのを待つことにした。足音は数10メートル先に聞こえる。

「来たぞ！」

見えたのは男女…Aの両親だ。

僕たちは目の前に飛び出し、進路を塞ぐ。

「Aはどこだ」

アラーム音は聞こえるのに、なぜかAがいない。

「野坂くんに灰崎くんじゃないか。
Aはここにはいない。このアラーム音はおとりだよ」

「おとり…！？」

まさか、アラーム音につられて来ることを分かってたのか？

「ふざけやがって…！」

灰崎くんがAのお父さん…智さんの胸ぐらを掴む。

「仕方ないでしょ？Aと14年ぶりに会えたのにもう日本へ帰るんだから。こうでもしなければAは私たちの元へ帰ってこない…」

Aの母の夏月(なつき)さん…だったか、が話す。

「Aならそんなことをしたって抜け出しますよ？それに、あなたたちのことを再び嫌いになる。分かってますか？」

親にこんなことされたら、Aは両親を信じなくなる。

「誰がそんな分かりやすいことをするの？私たちはAが決して離れないようにするのよ」

「おい、それくらいにするんだ。
もう話すことはない。Aは今頃遠くにいるさ。これからは私たちがAと本当の家族として過ごすんだ…！」

智さんが灰崎くんを振り払い、2人は走って行った。

「どうすんだよ野坂！」

「…」

何も考えられず、立ち尽くした。