昔の事情 ページ38
私のせいで静かになってるのは嫌で、気にせず盛り上がってもらうことにした。その方が話しやすいし。
『ほんとにごめん。光は関係ないのに、楽しめない』
「大丈夫ですって。大事な先輩が悩んでるのに放っておけないので。
それで、何から話しますか？」
『昔のこと。光はあんまり知らないからね。知ってるのは捨てられたくらいだと思う』
「はい。ずっと我慢してたんですね…」
『昔は全然気にならなかった。誰かと関わることもなくて、ずっと1人。施設にいた時は別だけど、ほとんど覚えてない。
で、王帝月ノ宮で野坂にサッカー勧められて、色々あって代表になった』
これにはほんとに感謝。自分が変わったんだから。
「野坂さんのおかげなんですね」
『野坂がいなかったら私は何にも変わってなかった。けど、野坂と会ったから今こうなってるとも言える。
サッカーで仲間とかチームとか知って、楽しくてこの場所でずっといたいって思ったら、なんか辛かった』
「俺もわかります。兄ちゃんも父さんもいなくなって、1人ぼっちで弱くて…助けてくれたのはサッカーと、みんなでした。けど、助けてもらってばかりなのも嫌でした」
1人じゃ生きていけないってやつ。人との関わりがあるから生きれる。
『1人で生きてきたのに助けてもらわないと生きれないみたいな感じ。
でもそれだけじゃない。家族とかいないのって、なか違う』
「違う…？」
『普通じゃないって言ったらおかしいかもだけど、家族がいないでこんなに生活が変わるものなのか、って。色々どうでもよくなったり辛かったり』
「それだけ家族とか仲間って大事なんですよね」
『イナズマジャパンに入れて本当に良かった。けど、比べちゃう。捨てられたか捨てられてないかでどれだけ違うのかとか』
思ったことが全然言葉にできない。もっと言えるはずなのに、出てこない。
「さっきのおお父さんとお母さんのこと、どう思ってますか？」
『嫌で、許せない。なんかあったとしても、捨てたのは同じだし、受け入れたくもない…世間ではどんなにいい人だったとしても、私の生きてきた中での思いは消せない』
環境を作ったのはあいつらだから、許せなんかできない。
「Aさん、次会った時はちゃんと話した方が絶対にいいです。どちらかが誤解しているかもしれません。たとえ許せなくたって、親は親。今生きてるからこそ会いに来てくれたんです」
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亜風炉照美
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