特別な私の皇帝【野坂悠馬】 (ページ21)

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知りたいことページ21

「野坂…、貴様どこまで腐ってやがる！」

「腐っている？腐ってるのは僕じゃない。この社会の方だ」

灰崎はさっきのグリッドオメガで負けたことについて言ってる。
野坂は勝つことを選んだ。

「知っているかい？世界のどれだけの子どもたちが孤独な思いをしているか。親を知らない者もいる。親の元にいたとしても、一人で放置され、独りぼっちの食事をする者もいる…。
大人たちは、子どもへの愛よりも、出世のかかったばかしあいにかまけているんだ。その犠牲となった子どもたちは、また同じような大人へと育っていく。現代社会は人の心を失ったループの中にあるんだ。だから、変えねばならない…」

自分の体験したことから言えるのか。
野坂は誰よりも世界を変えようとしてる。今生きてる大人なんかより、ずっと…。

「それを変えるのが、アレスの天秤だって言いたいのか！」

「そうだよ。優れた人間は、全てを手にできる。富も、名声も、人の心ですらも」

「しかし、アレスの天秤は多くの犠牲者を出している。心を壊され、自分を見失った者もいる。そんなことが許されるかよ！」

『灰崎はアレスの天秤になんか恨みでもあんのか？世界を変えられんのにそんなこと言っていいのかよ！？』

「アレスの天秤で、あいつは…、心を失った！」

『な…』

私は一瞬言葉が出なかった。アレスの天秤が、心を奪った…？

「少しの犠牲者が出たってしょうがないことなんだ…。
それに、君の言う犠牲者が、確実にアレスの天秤が原因だって言えるのかい？」

「何！？」

「もし君がアレスを潰したいというのなら、決定的な証拠でも見つけることだね」

『なぁ、野坂…。アレスの天秤が、心を奪ったのって、本当か…？』

寄宿舎に戻る途中、さっきのことが知りたくて聞いた。

「アレスの天秤が原因だとは言えない。Aちゃんに言えるのはそれだけだよ」

『なんで全部教えてくんない！？私は、知りたいんだよ！アレスの天秤も、野坂も！』

「教えられるなら教えたい。だけど、そんなこと…」

「野坂さん、時間です」

寄宿舎の前にいた西蔭が話を遮った。

「ごめんね、Aちゃん」

そう言った野坂の表情は、今まででいちだんと辛そうだった。