明転 ページ31
四天宝寺に転校してきてから、はじめて学校を休んだ。親には体調が悪いと言ったら簡単に信じてもらえた。多分相当酷い顔をしていたんだろう。
一応パジャマから着替えてご飯は食べたけど、それ以外はスマホを見るか寝るかして腐った一日を過ごしていた。
薄い布団にくるまって、スマホの画面を見つめる。
ポコポコと増えるメッセージの通知。時計を見れば、もう部活が終わる頃だ。
明日は行かなきゃなあ、と口に出す。そうすると余計気が重くなった気がした。始まってすら無かった恋がダメになって落ち込むなんて、自分のことまで嫌になりそうだ。早く諦めなきゃなあ、と思う。
布団から這い出て、メッセージに返信するべくアプリのアイコンに指を伸ばす。と、唐突に画面が「着信」の表示を見せた。
「だ、れ……」
素っ気ないゴシック体は、「一氏ユウジ」の文字を写す。手が震えた。着信音と私の吐息が部屋の中を満たす。
どうしていいのか分からないままでいると、やがて通話は切れてしまった。
勿体ないような、ホッとしたような。不思議な気持ちでいると、すぐにまたスマホが振動を始める。
これ、出るまで止まらないのでは。少しだけ躊躇いながら、受話器のアイコンをタップする。少しだけ熱を持ったスマホを耳元に当てた。
「A」
「は、い」
もしもし、を飛ばして名前を呼ばれて、少しだけどきりとしてしまった。さっき捨てようとした恋心がに、もう一度ふわりと火が灯る。
私の頼りない声に、一氏さんが小さく、自嘲するように笑う。
「……そんなに怖がんなや」
「ごめんなさい……」
「とはいえ、俺が悪かったからそう言う権利も無いな」
「え、」
その言葉の真意を計りかねていると、私の意識を引き戻すように一氏さんの声がした。振動が直に伝わる。
「なあ、外見てくれんか」
「はい……」
のろのろとベッドから立ち上がる。言われた通りにカーテンを引っ張って、窓の外を覗き込んで。
そこにあった光景に息が止まりそうになった。心臓が痛いくらいに動き始める。
ラケットバッグを地面に置いた彼が、ひらりと片手を上げていた。表情までは見えないけれど、その姿に泣きたくなるくらいの安心を覚えた。
「ひとうじさん……」
なんだか感極まって、彼の名前を呼ぶことしか出来ない。嬉しいのか、緊張しているのか。自分の感情すら理解できない。
「降りてこれるか？ 話、したいんや」
耳元で響く電波越しの彼の声は、嘘みたいに優しかった。
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純春(プロフ) - ユウジがカッコよくてもう、本当尊かったです！！四天王寺の皆も優しくて！今までの読んできた小説の中で一番好きでした！素敵な小説をありがとうございました！！ (2022年8月12日 3時) (
レス) @page35 id: 09c558d372 (このIDを非表示/違反報告)
ユズキ - はじめまして。ユウジ夢探していたらこちらの作品に出会いました。ユウジ本当にかっこよくてきゅんきゅんしました……！ユウジ夢自体あまり世の中に多くない中、こんな素敵な作品に出会えて本当に幸せです！ありがとうございました！ (2021年8月30日 11時) (レス) id: 9fc0ea5f67 (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - ユウジくんの作品を探してたら辿り着きました。とてもきゅんきゅんしました！ (2021年3月1日 4時) (レス) id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
におー - この作品を見てからか、四天宝寺の中でユウジが一番の推しになりました！ (2020年8月9日 23時) (レス) id: ee24a57219 (このIDを非表示/違反報告)
猫乃(プロフ) - 珠那さん» コメントありがとうございます、とっても嬉しいです。 気に入って頂けて何よりです、どうか完結までお付き合いよろしくお願いします！ (2020年6月23日 12時) (レス) id: 04007d82f5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：猫乃 | 作成日時：2020年5月9日 18時
