沈殿 ページ29
次の日も。その次の日も。
当たり障りない会話をして、一氏さん以外の部員に囲まれて私は生きていた。
彼とは一言も交わせていないまま。ましてや、目も合わせられていない。
自分が何をしてしまったのかもわからないままだ。
皆は、
「Aは悪くない」
「もう少しの辛抱や」
って言ってくれるけれど、そんな風には割り切れない。
優しかった一氏さんを知ってしまったから。暖かな彼の体温を感じてしまったから。……好きだって、思ってしまったから。
だからこそ、こうやって避けられると引き裂かれるみたいに心が痛くて。
毎日少しずつ傷口を広げられているような感覚。それが、どうしようもなく重たく私にのしかかっていた。
今日の部活の帰り道は一人だ。見慣れた帰り道も、街灯の明かりしかないと急に寂しく思える。時折すれ違う人の顔は見ないように歩く。何となく、惨めになってしまうような気がして。
ありがたいことに白石さんや千歳さんが送ると言ってくれたけれど、断った。こんな顔をしているのは誰にも見られなくなかったから。
自分の靴の音と時折走る車のタイヤの音を聞きながら、俯いて歩く。肩にかけた鞄がやけに重く感じた。
その時、通知音が耳に入る。スマホを見ると、財前くんから連絡が来ていた。通知欄に、そっけない「大丈夫か」という文字が浮かんでいる。言葉の選び方がとても彼らしい。
嬉しい反面、上手く返信できる気がしなくてそのまま画面を消す。明日、ちゃんと謝ろう。そしてお礼を言おう。でも今は、このまま一人にしておいてほしい。
私は悪い子だ。皆にフォローしてもらって、気にかけてもらって。こんなに恵まれた環境なのに、あなたがいないと嫌だってわがままを捨てられない。
前まではこんな事思わなかったのに。皆と仲良く出来ればそれで良かったのに。
前はもっと辛かったはずなのに、今はこんな小さな傷でも耐えられない。
「ひとうじ、さん」
私の独り言は震えていた。手の甲にぬるい雫が落ちる。
どこで何を間違えてしまったんだろう。一人で考え込んだって、泣き続けたって、誰も答えは教えてくれない。これから、どうしたらいいんだろう。
手の甲で目を拭うと、夜の街がぼやけた景色が見えた。
ああ。きっと、全部私が悪いんだ。
好きになってしまってごめんなさい、一氏さん。
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純春(プロフ) - ユウジがカッコよくてもう、本当尊かったです！！四天王寺の皆も優しくて！今までの読んできた小説の中で一番好きでした！素敵な小説をありがとうございました！！ (2022年8月12日 3時) (
レス) @page35 id: 09c558d372 (このIDを非表示/違反報告)
ユズキ - はじめまして。ユウジ夢探していたらこちらの作品に出会いました。ユウジ本当にかっこよくてきゅんきゅんしました……！ユウジ夢自体あまり世の中に多くない中、こんな素敵な作品に出会えて本当に幸せです！ありがとうございました！ (2021年8月30日 11時) (レス) id: 9fc0ea5f67 (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - ユウジくんの作品を探してたら辿り着きました。とてもきゅんきゅんしました！ (2021年3月1日 4時) (レス) id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
におー - この作品を見てからか、四天宝寺の中でユウジが一番の推しになりました！ (2020年8月9日 23時) (レス) id: ee24a57219 (このIDを非表示/違反報告)
猫乃(プロフ) - 珠那さん» コメントありがとうございます、とっても嬉しいです。 気に入って頂けて何よりです、どうか完結までお付き合いよろしくお願いします！ (2020年6月23日 12時) (レス) id: 04007d82f5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：猫乃 | 作成日時：2020年5月9日 18時
