一条 ページ26
そうこうしているうちにも、ゲームはどんどん進んでいた。慌ててコートに目線を戻す。転がってきたボールを拾って戻しながらも、彼からは目が離せなかった。
「ほんなら、俺も得意技で攻めていくで！」
コートの際を狙ったボレーを、忍足さんが的確に拾う。
「っ、追いつくか……」
「そこや！」
悔しそうな一氏さんの足の先をボールが凪いでいった。
「一本取られたわ」
二人が汗を拭う。小石川さんの声が響いた。
白熱した試合は、気付けば両者譲らないスコアになっていた。しかし、一歩リードしているのは一氏さんの方だ。
マッチポイント、という声が聞こえた。
コートに散らばる汗の粒が妙に眩しい。勝負はもう決まってしまうのだろうか。
「……、一氏さん」
どちらも頑張ってほしい。だけど、声に出たのは彼の名前のほうだった。
その瞬間、彼の肩が跳ねたのは私の見間違いだろうか。地面を蹴って、高く上がったボールに追いついて。
「これで、仕舞いや！」
振りかぶったラケットが、忍足さんのコートに風のようなスマッシュを打ち込んだ。
「ゲームアンドマッチ、ウォンバイ一氏！」
忍足さんのコートでボールが転がる。小石川さんが高らかに言った。向こうで歓声が上がる。白石さんが拍手を響かせた。
「……してやられたわ」
「いや、謙也も中々やで。速攻決められたら危なかったわ」
「ユウくん！ ええ感じやったわぁん」
「小春ぅ！ やったで！」
ライバルっぽいかっこいい会話が霞んだ。肩を組むお二人。いつものだ。
「ベタベタすんなっちゅうねん」
「はは、またやっとる」
と、みんなの笑い声を背に、一氏さんがこちらに歩いてきた。思わず肩が強ばる。
「どや。ちゃんと見てたか、A」
「は、はいっ」
ヘアバンドを直してニヤリと笑う一氏さんの額を汗が伝った。見蕩れてしまいそうになるのを堪えて何度も首を縦に振る。かっこよかったです、とかさすが一氏さんです、とか言いたくても言えない言葉を込めるように。
「ほなええ」
「あ、ドリンク……向こうのクーラーボックスです」
そんな私を見た彼は、さらに目を細めて……こちらに手を伸ばす。
「わ」
頭のてっぺんに優しい感触。思わず目を閉じると、彼が笑ったような気配がした。
「ありがとさん」
頭を撫でられたと気付く頃には、彼はもう背を向けて去ってしまっていて。さっき触れられた髪に、そっと手を当てる。
私と計りきれないほどのどうしようもない体温だけがコートに残されていた。
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純春(プロフ) - ユウジがカッコよくてもう、本当尊かったです！！四天王寺の皆も優しくて！今までの読んできた小説の中で一番好きでした！素敵な小説をありがとうございました！！ (2022年8月12日 3時) (
レス) @page35 id: 09c558d372 (このIDを非表示/違反報告)
ユズキ - はじめまして。ユウジ夢探していたらこちらの作品に出会いました。ユウジ本当にかっこよくてきゅんきゅんしました……！ユウジ夢自体あまり世の中に多くない中、こんな素敵な作品に出会えて本当に幸せです！ありがとうございました！ (2021年8月30日 11時) (レス) id: 9fc0ea5f67 (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - ユウジくんの作品を探してたら辿り着きました。とてもきゅんきゅんしました！ (2021年3月1日 4時) (レス) id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
におー - この作品を見てからか、四天宝寺の中でユウジが一番の推しになりました！ (2020年8月9日 23時) (レス) id: ee24a57219 (このIDを非表示/違反報告)
猫乃(プロフ) - 珠那さん» コメントありがとうございます、とっても嬉しいです。 気に入って頂けて何よりです、どうか完結までお付き合いよろしくお願いします！ (2020年6月23日 12時) (レス) id: 04007d82f5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：猫乃 | 作成日時：2020年5月9日 18時
