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ああ、嫌なもの見せられたなというのが本音だ。
数学教師の話が全て右から左へ通り抜けていく。ただ板書された文字をノートに写すだけの作業を行いながら考えるのはさっきのこと。
俺の目の前で光来くんと楽しそうに話す(人1)さんに少し苦しくなった。捨てたはず、捨てると決めたはずの彼女への思いがぶり返すように俺を覆う。可笑しいな……まだ、無くしきれていなかったのか。自分のタラタラな未練に笑えてくる。
彼女を思うようになった明確な理由なんて無い。ただ、いつの間にか自分はよく彼女を見ていた、意識していた。誰にでも分け隔てなく柔らかい笑みを向ける、案外しっかりしてる、意外とスポーツが得意。そんなことに気づく頃にはもうとっくに自分の思いを自覚していた。
バレーばっかで余裕なんてなかった自分がこうして誰かを好きになるなんて。それもこれも、俺に余裕をくれた光来くんのおかげだななんて思えた。感謝さえするくらい、彼女を意識して過ごす毎日は楽しかった。
そんな光来くんだから、いいと思えた。そこらへんの男じゃ駄目だ、光来くんだから……俺にとってある種特別な彼だから、この思いは捨てようと決めたんだ。
光来くんは単純だから、(人1)さんのことを好きなんてすぐ気づいた。あぁ、いや……気づいていたけど俺は暫く気づかない不利をした。何かの間違いだろって思いたかったんだ、だってよりによって相手が光来くんなんだもん。
きっと光来くんは入学して間もない頃から(人1)さんのことが好きだったと思う。でも、俺がその事実を認めたのは2学期の終わりごろ。5ヶ月近い間見てみぬ振りするくらい、間違いであってくれと願うくらい、俺は彼女を諦めきれていなかった。そして同じように、光来くんも彼女が好きだった。
こりゃ駄目だ、諦めよう。散々引き伸ばしてきたくせに割り切ったのは案外一瞬だった。光来くんが、(人1)さんが、意味は違えど好きな人2人が幸せになってくれるならそれが一番じゃないか。
だからもし、(人1)さんが光来くんじゃ駄目だったとき……その時は俺だって遠慮しないと決めていた。邪推みたいだけど。
「(あれでまだ好きじゃないつもりなら相当馬鹿だよ、(人1)さん。)」
俺に向ける笑顔と、光来くんに向ける笑顔はまるっきり違っていた。見せ付けられるような俺と光来くんの明確な差。もう俺に、本当に勝ち目はない。
不器用で手のかかる、俺の大好きな2人。仕方が無いから俺が支えてあげる。
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ましゅ(プロフ) - さいっこうに最高なお話でした。2人のよさも可愛さもギュッと詰まってて、光来くん〜〜〜〜!!!って悶えました、天才です……幸郎も解釈が一致すぎて……ギュンギュンしました、最幸のお話をありがとうございます!! (2021年4月30日 3時) (レス) id: 01c5a5310c (このIDを非表示/違反報告)
なつなつき(プロフ) - お誕生日!!!最高です!ありがとうございます!! (2021年4月17日 9時) (レス) id: 299227e86e (このIDを非表示/違反報告)
紫音(プロフ) - 赤兎リエ輔さん» 楽しみにしてますね!ゆっくりで良いのでこれからも頑張ってください! (2020年5月8日 8時) (レス) id: 2b0a425061 (このIDを非表示/違反報告)
赤兎リエ輔(プロフ) - あおりんごさん» 1番だなんて勿体無いお言葉です…!嬉しすぎます…!コメントありがとうございます、とても自身と励みになります…。楽しんでいただける作品を提供できて幸せです、!コメント並びにご愛読いただきありがとうございました。これからも頑張ります〜! (2020年5月8日 1時) (レス) id: 9a5c590feb (このIDを非表示/違反報告)
赤兎リエ輔(プロフ) - 紫音さん» レス遅れちゃってすみません…!ずっと応援していただいてありがとうございましたぁぁ…!紫音さんのお声に本当に励まされました(*´`)絶対また作ろうと思っているので、その時はまたぜひお付き合いください、!本当にありがとうございました…!! (2020年5月8日 1時) (レス) id: 9a5c590feb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:赤兎リエ輔 | 作者ホームページ:http://nekomoti
作成日時:2020年3月30日 23時