第１９５話 ページ45
・
・
選手生命という対価を支払う覚悟をしたAが立ち上がると、彼女を明るいオーラのようなものが包み込んだ。――そう、天衣無縫の極みだ。
この時Aは意図して天衣無縫に到達していた。自分が引き込んだ天衣無縫という境地は無意識かに発動できたものとはまた違ったものがある。既に幻覚や幻聴などはなくなっていた。
「天衣無縫……何故、絶望的な状況だったはずだ！！」
動揺をあらわにしているエコーが叫んで、勢いに任せてサーブを打った。それを打ち返せば、エコーに反応を許すことなくコートに決まる。次も、次も、形勢逆転という言葉がぴったりの状況。
1ゲーム、1ゲームとAは取り返し、ついにはゲームカウント5-4とAが逆転した。そしてラストゲーム、サービス権はAにある。
全力で打ちはなったサーブは到底ペースを乱されているエコーには反応し得ないものだった。
「君は間違いなく追い込まれていた、あの状況でどうすれば天衣無縫に到達できる！」
「……貴方は相応の対価を支払う覚悟、ありますか？」
そういうや否やAはサーブを打つ。30-0、残すは1球。エコーの問いかけに答えたAの顔は悩みや不安の色の一切見えない、純粋なテニスを楽しむ気持ちの表れた笑顔だった。
その顔に目を見開いた後、エコーは諦めたように目を伏せて笑う。彼の足元でボールが跳ねたのはそのすぐ後だった。
「ゲームセット、ウォンバイ日本！6-4！」
歓声に沸いた会場と、すっと解けた天衣無縫。勝利したのだと冷静に理解した瞬間あふれていたアドレナリンがその役割を失った。腹部を中心に体中が酷く痛む。エコーと握手をしなくてはいけない、ベンチに戻って喜びを共有したい、そんな思いを抱きながらAの体は傾いてく。
体が地面に打ち付けられる衝撃を感じたときには、既に意識を手放していた。
・
・
目が覚めたAの視界に真っ先に入ってきた天井は真っ白だった。体を起こせば「Aちゃん！」と声をかけられる。そこには心配そうにこちらを見る入江と齋藤の姿があった。
状況の飲み込めていない頭で「入江さん、コーチも……。」とぼんやり呟く。
「目が覚めてよかった……。」
「ここは病院だよ。試合後、大事を取って検査してもらったんだ。」
体を起こして辺りを見渡せば確かにそこは病院の一室であった。ぼうっと思いにふけていると、そっと入江の手が頭に乗せられる。
「無茶しすぎだよ、君は。」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 345人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「テニスの王子様」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
赤兎リエ輔(プロフ) - ミズチーさん» とても温かいお言葉を…ありがとうございます…！！どうにか乗り越えてきます！そのお言葉が本当に頑張る糧になります…更新は遅いですが、ご期待に沿えるよう精一杯頑張らせていただきます！ (2019年2月20日 0時) (
レス) id: 9a5c590feb (このIDを非表示/違反報告)
赤兎リエ輔(プロフ) - 蜜さん» ご愛読ありがとうございます！感謝感激でもう…感無量です…！応援の言葉ありがとうございます、とても励みになります！少々お時間はいただきますが、気長にお待ちいただければ幸いです(*´｀) (2019年2月20日 0時) (レス) id: 9a5c590feb (このIDを非表示/違反報告)
ミズチー - テスト大変だと思いますが、頑張ってください！とても面白いので更新遅くても待ってます！ (2019年2月19日 21時) (レス) id: 402d306b68 (このIDを非表示/違反報告)
蜜(プロフ) - いつも楽しく読ませて頂いてます。テスト大変だと思いますが、更新心待ちにしております。頑張ってください！ (2019年2月19日 16時) (レス) id: 372926e5f2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：赤兎リエ輔
| 作者ホームページ：http://nekomoti
作成日時：2019年2月18日 3時
