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第57話 ページ7






「仲直りしようや、Aちゃん。」




Aまえ数歩の距離まで近づいたところで、種ヶ島はそういって両手を広げた。仲直りのハグ、ということだろうか。本来なら会話するのも苦手だというのに、いきなり高いステップを踏ませるものだ。

求められたものがハグだったことにAは少し戸惑った後、錆びた金属機械のように動き辛い足をどうにか動かし始める。克服しなくては、それは自分が一番分かっていたから。



1歩、1歩と足を踏み出すAの姿を、種ヶ島は優しく見守っていた。その顔つきを見て、Aは思い切って種子島の腕の中へ飛び込んだ。バランスを崩しつつもそれをしっかり支え、受け止めてくれた種ヶ島のぬくもりを直に感じる。




「修さん、私……すみませんでした。」
「ほんま、手のかかる妹やわ。」




ぽんぽん、と背中を優しく叩く種ヶ島の暖かさに触れ、Aは心地よさと眠気を感じた。小学4年の頃から会って居ない両親を思いだし、無意識に腕の力を強める。

「克服早々甘えたさんやな〜。」と笑いつつ、種子島はずっとAの背中を叩いていた。Aがそのまま眠ってしまうまで。




「……さて、徳川に預けなあかんけど……こりゃ怒られてまうな〜。」




毎日の崖の上の地獄への往復、疲れているのは分かるが立ったまま寝てしまうほどとは。それも自分は今まで苦手意識を持っていた人物で、克服できたのはついさっきであるというのに……その事実に、種ヶ島は口角を上げる。

自分の腕の中でスースーと眠る彼女はテニスをする時に見せる凛とした姿とは違う。歳の違いは3つとはいえ、やはり中学生と高校生の差は大きい。さらに出会いは一応中2なりたてのころ、つまりほとんど中1のころなのだから尚更に。




この合宿所の者のほとんどがAのことは妹として可愛がっている。それを態度に出すか出さないか、Aと接する機会が多いか少ないか、徳川達との違いはただそれだけだ。


仕方のないこととはいえ、そんな彼女から苦手の対象として見られるのは種ヶ島自身不本意である。中2の女の子が来るとはじめて聞いたとき、家にいる妹や弟のように可愛がろうと決めていたのだから。





「負けへんで〜、徳川。」





よっ、とAを横抱きにして、徳川を探すために歩き出した。抱き上げたとき、無意識の彼女がぎゅっと自分の服を掴んだことにひとりの女の子として意識してしまったのはココだけの話だ。







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作者名:赤兎リエ輔 | 作者ホームページ:http://nekomoti  
作成日時:2019年1月10日 0時

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