第９６話 ページ46
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「鬼、大変だ！」
先ほど外の騒ぎを聞きつけて医務室を飛び出して行ったけれど、外の様子を見て慌てて戻ってきた。徳川くんと何かを話していたらしい鬼がこちらに向いて「どうした。」と冷静に言う。演技ではなく実際焦っていることが伝わったのか、その顔は少し険しい。
「平等院くんがまたっ！」
僕の言葉を聞いて鬼だけでなく徳川くんも目を見開いた。少し黙った後、鬼は徳川くんにここにいるよう促してから立ち上がる。こちらへ歩いてくる鬼の顔はまるで本当の鬼のようだった。
再びコートに出ると、先ほどまで不安定ながらもしっかりたっていたあの子は倒れてしまっていた。苦しそうに身を縮めて、それでも立ち上がるその姿は強くもあり苦しくもある。平等院くんはそんな彼女を侮蔑したような目つきで見ていた。
「あの野朗……。」と、隣で鬼が低く呟いた。その声色は顔を見ずとも怒り心頭であることが分かるほどで、それは僕も同じだ。
未来ある選手を潰す必要性なんて感じない……それも相手はあんなに小さくてか弱い女の子だというのに。ふつふつと沸きあげてくる怒りをどうにか静めて、今正に試合に乱入しようとする鬼を止める。
「待ちなよ鬼。コーチ達があそこで見てるってことはこれは公式的な試合だ。今乱入すれば合宿退去になる。」
「……じゃあどうすりゃいい。このまま黙ってみとけばいいのか？」
鬼は青筋をたてて試合を見ている。子供が大好きな鬼は余計にこの状況が腹立たしいらしい。
そんな彼に「落ち着いて。」と一声かけてから、僕はコーチ達の元へ歩き始めた。鬼も僕の隣を着いて歩く。
「止めさせよう。彼女を招待したのはコーチ達なのにこれ以上試合を続けるなんて矛盾してる。」
そんな権限が僕たちにあるのかとか、そんなこと今はどうでもよかった。自分も結構感情的になってるな、なんて頭の中で思って少し笑う。らしさなんて関係ない、ただ目の前でボロボロになる彼女を救いたかった。
コーチ達の元へ行くと、苦い顔をした齋藤コーチがこちらに向いた。黒部コーチはじっと試合を見ている。
「試合を中止してください。これ以上続ければ彼女が持たない。」
「そもそもこの試合に意味があるとは思わねェ。何故徳川の試合を見て尚この試合を決行した。」
「……だそうだけど、どうする？黒ベエ。」
齋藤コーチが黒部コーチのほうに向き直る。黙っていたコーチは、ため息混じりに静かに言った。
「そうですね。」
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作者名：赤兎リエ輔
| 作者ホームページ：http://nekomoti
作成日時：2019年1月10日 0時
