弟95話 ページ45
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ニタリと笑ってAを見た後、平等院はサーブトスをあげた。言葉にあらわすことのできない恐怖に身を固めていたが、慌てて構える……しかし、次の瞬間に感じていたのは痛みだった。
左腕に感じた強烈な痛みと、それと同時にはじけ飛ぶラケット。平等院のサーブが自分の左腕に当たったのだと気づくのに少し時間を要した。
「次は反応しろよ?試合ならねェんだろ。」
ぐうの音も出なかった。平等院の放ったサーブを目でおうことも、捉えることも出来なかったのだから。苛立ちよりも悔しさが襲ってきて、Aは今度こそと再び構えた。
集中して平等院の姿を見つめる。サーブトスからスイングまで、注意深く見ているとわずかながらにボールが見えた。ほぼ無意識に、感覚的にラケットに捉えるも、その威力に圧倒されロブがあがる。
しまった、そう思うよりも先に平等院は高く飛んでボールを捉えていた。まるで彼のサーブにAがロブしか返せないことを見越していたかのように。
「低レベルでおだてられてのぼせ上がったクソ餓鬼が……ここを何処だと思っている!!」
そう叫んだ平等院打ったボールはすさまじい威力と勢いをもってAの腹部へ命中した。そのまま壁まで弾き飛ばされ、体を打ち付ける。周囲がざわざわと騒ぎ始めた。
腹部を中心に痛む全身。それでもどうにかAが立ち上がると、平等院は酷く冷たい目をしていた。
「現実を教えてやる、餓鬼。」
そういった彼の表情と威圧感をAは今でも鮮明に思い出す。腹部の痛みとともにインプットされた彼への恐怖心。それでもAはすくむ体を無理矢理にでも動かした。
平等院の言ったとおり自分は付け上がっていたのかもしれない。それでも、そうだとしても、たとえどれだけ小さかろうとプライドがあった。
再びコートに立ったAに、平等院はわずらわしそうに目を細めた。そして低く言う。
「散れ。」
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重い一撃で的確に体を狙われたり、軽く当てて跳ね返ったボールをまた当てたり……目の前で行われている試合はさながらリンチであった。
決して面白い試合などではない、それでも男は頬杖をついて見つめる。
「むごいなあ、何もそこまでせんでも。」
女の子やのに、と若干違和感のある関西弁で呟いた男――種ヶ島はどんどんボロボロになっていく少女を見つめて顔をしかめた。それでいて、その顔はどこかこれから起こる出来事に期待をしているようにも見えた。
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作者名:赤兎リエ輔 | 作者ホームページ:http://nekomoti
作成日時:2019年1月10日 0時