第91話 ページ41
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「遅かったですね。」
Aがその声のしたほうへ向けば、白いスーツに身を包んだ癖毛の男の姿。齋藤が彼を「やあ黒ベエ。」と呼ぶ。合宿傘下を誘う手紙にあった黒部という名前の人物は彼のことらしい。けれど、Aの視線も意識ももう1人のほうにあった。
「ちょっと道が込んでてね。それより、彼が徳川君?」
「ええ。そちらは水瀬さんですね。」
自分の名前を呼ばれて少し肩を跳ねさせる。徳川、それは癖毛の男の隣にいた黒髪の男の名前らしかった。ストレートの黒髪、鋭い目つき、高い身長としまった筋肉。誰がどう見てもスポーツマンといえる体系の男だ。
ここに来る道中の車内で齋藤に言われた言葉を思い出した。同じ日に参加する高校生の男がいる……それが彼という事だろうか。
「はじめまして。これからよろしくお願いします。」
「はい、よろしく。」
その会話を受けて、Aも慌てて黒部に「よろしくお願いします。」と頭を下げた。こくりとひとつ頷いた後、黒部がくるりと方向転換をする。
「着いてきてください。この合宿のルール、意義を説明します。」
その言葉を受けて、すぐに徳川が歩き始めた。Aもその隣をおずおずと続く。徳川はAと目を合わせることも、Aに視線を向けることもなかった。クールというか、冷たいというか。
第一印象ははっきりいって怖い人、である。
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講義室のような部屋に連れられた後、「少し待っていてください。」とだけ伝えて黒部は部屋を後にした。室内に徳川と2人きり、つい先ほど怖いという感情を抱いた人物といきなり2人きりとは答えるものがある。
それでもやはり合宿を有意義にするためにも仲良くなりたいという思いがあった。コミュニケーション能力は長けているほうであるから、Aは勇気を出して声をかける。
「あの……水瀬Aです。よろしくお願いします。」
声をかけると、徳川がゆっくりこちらに顔を向けた。その冷たい目つきに息が詰まる。少しの沈黙の後、徳川は短くため息をついた。
「徳川カズヤだ。」
完結にそれだけ言って徳川は前に向き直ってしまった。会話が終わってしまったことに慌てて、Aはどうにか会話を続けようとする。
「背高いですよね、何センチあるんですか?」
「189。」
「……と、徳川さんのプレースタイルとかって何なんですか?」
「オールラウンダーだ。」
……これは無駄な努力かもしれない。Aははやくもそう悟った。
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作者名:赤兎リエ輔 | 作者ホームページ:http://nekomoti
作成日時:2019年1月10日 0時