第88話 ページ38
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とうとう午前の最後の練習が終わった。それはAが最も待ち望んでいたことでもある。
A、と自分を呼ぶ低い声。慌てて振り返った視線の先にいた徳川の姿にAは目を輝かせる。あまりにあからさまに喜んでみせたその姿に、徳川も少し笑った。
「昼は戻ってきてからでいいな?行くぞ。」
「はーい!」
相当ハードな練習だったため、いくら1番コートの選手といえど座り込んで荒い呼吸を繰り返している。しかし、普段から鍛えている徳川と嬉しさで疲労を忘れているという典型的な単細胞であるAだけは別で、すぐに買出しへと歩き出した。
そのテンションの差と身長差から、親子みたいだな、と他の選手に囁かれていることを2人は知る由もない。
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「だから試合したくも無くもあって……そういう点では幸村くんがやっぱり気なりますね。」
「幸村精市か……。確かに中学生の中でも優秀な選手ではあるな。」
「あー、でも跡部くんの美技もすきだし仁王くんのイリュージョンも……あー!決まらない!」
雑談の中で出た気になる中学生の話題。「気になる中学生はいるか。」と徳川に聞かれた時はぎょっとしたが、気になるの意味合いを察して息を吐いたのはココだけの話。
次々と出てくる気になる中学生の名前を中々絞りきれず、頭を抱えたAの様子を見た徳川は口角を上げた。
「中学生と試合をしている時も思ったが、随分と楽しそうだな。」
「そりゃあ同じ中学生ですから。」
Aの表情筋はずっと楽しそうに緩んでいる。いつにも増してテンションの高いAに、徳川もまたいつにも増して柔らかい視線を向けた。その姿はやはり兄妹、いや親子のようと表すのがふさわしい。
話しの種は尽きることが無く、店に到着するまで2人の(というよりほとんどAの)口が止まることは無かった。
徳川が頼まれたという買出し品を次々にカゴへ入れていく。残るはコールドスプレー、ということでコールドスプレーが売っているコーナーへやってきた2人の前には見知った人物がいた。
「い、入江さんと鬼さん……?」
「あれ、徳川くんとAちゃんも買出し?」
目の前に居たのはまさかまさかの存在、入江と鬼だった。2人のほうもAと徳川の存在に驚いたらしく目を丸くしている。4人が向かい合って目を丸くしている(しかもうち2人は大柄の男)という光景に周囲の視線を集める。
とにかく会計を済ませようということで、揃ってレジへ向かった。
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作者名:赤兎リエ輔 | 作者ホームページ:http://nekomoti
作成日時:2019年1月10日 0時